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スタートアップが創業期からCDOを迎えるべき理由|マネーフォワード クラウドの進化を語ろう【番外編】

『マネーフォワード クラウド』の成長を牽引した“これまでの進化”と、さらなる成長に必要な“これからの進化”について、経営メンバーにインタビューする「進化を語ろう」シリーズ。

第三弾「デザインが事業にもたらした4つの大きな進化」のインタビュー中、話題はデザイン経営から、スタートアップにおけるCDOの話へ。

今回は番外編として、マネーフォワードでデザイン経営を実践してきた三人が、スタートアップにおけるCDOの役割や迎えるべきタイミングについて語ります。

Part1:事業戦略
Part2:プロダクト作り
Part3:デザイン経営
番外編:スタートアップが創業期からCDOを迎えるべき理由


今回のスピーカー

竹田 正信
取締役執行役員
マネーフォワードビジネスカンパニー COO

伊藤 セルジオ 大輔
執行役員 グループCDO(Chief Design Officer)
マネーフォワードビジネスカンパニーCDO

横坂 圭佑
マネーフォワードビジネスカンパニー デザイン室 室長

CDO(Chief Design Officer)の役割とは

ーーセルジオさんはマネーフォワードのCDOを担当されていますが、そもそもCDOにはどんな役割を求められるのでしょうか?

セルジオ:これまでたくさんのCDOに会ってきましたが、やっていることは会社ごとに全然違います。私が個人的に整理している図をもとに説明しますね。

まずは本編で、経産省の『「デザイン経営」宣言』では、デザイン経営の効果として「イノベーションに資するデザイン」と「ブランド構築に資するデザイン」が定義されていると話しました。

CDOの役割を示す図(セルジオ作成)

CDOの役割としては、プロダクト側の貢献と、ブランド側の貢献の大きく二つに分けられます。ここの時点で分けると、プロダクト寄りのことをやる人、ブランド寄りのことをやる人で分かれます。私は両方の領域を見ています。

その中にいくつかレイヤーがあります。

事業・経営レイヤー
ビジョン策定や経営課題の解決などに関わる人

組織レイヤー
デザイン、組織開発、人材採用などに関わる人

サービスレイヤー
具体的なプロジェクトのリードやデザインシステムの構築などに関わる人

これらのどこに重きを置いているかは組織や人によって違います。 多くは事業フェーズや組織フェーズによって変わりますね。

それこそ社員5~10人ほどのスタートアップだと、サービスレイヤーに重きを置き、とにかく顧客側を向いてサービスの価値向上を目指します。社員100人規模になると組織レイヤーを強化。さらにマネーフォワードのように事業が多角化していくと、経営課題が増えるため、事業・経営レイヤーを強化していく必要があります。

マネーフォワードビジネスカンパニーCDO 伊藤 セルジオ 大輔

CDOを迎えるタイミング

ーー社員5~10人規模の会社でも、CDOを迎える必要があるんでしょうか?

セルジオ:どのフェーズでも課題はあるので、シードやアーリーのフェーズでもCDOを迎えられるなら迎えるに越したことはないですね。

竹田:先日、創業数年が経った社員数30名規模のスタートアップでお話しする機会があったんですが、そこで感じたことがあったんです。

その会社は創業者がとにかく熱い人で、社風もものすごい熱量があったんですね。社員も遅い時間まで会社にいて、仕事も食事も共にする。まさに同じ釜の飯を食うといった様子でした。

そして、壁には想いが強すぎてものすごい長文になったミッション・ビジョンが貼り出されていたんです。

会社の最初のつくり方はこれでいいと思うんですよね。ミッション・ビジョンの実現に近付いていけるスタートアップって、最初はどこも熱病におかされたような勢いがあるんです(笑)。長文のミッション・ビジョンも、毎日みんなが近い距離で働いていたらコンテクストを共有できます。

でも、社員が100人を超えてくると、長文すぎるミッション・ビジョンや熱いメッセージが伝わりにくくなると思うんですよね。熱さが空回りしてしまう危険もある。

メッセージって、結局のところ伝わらないと意味がないじゃないですか。“伝える”じゃなくて“伝わる”ことが重要ですよね。“伝わる”ように切り替えるためには、メッセージの整理が必要になるでしょう。

こういうタイミングは、CDOを迎えてデザイン経営を取り組みはじめるタイミングなんだと思います。ただ、自分がこれから会社を立ち上げるとしたら、絶対最初から入ってもらいますが(笑)。

(中央)マネーフォワードビジネスカンパニー COO 竹田正信

ーー社員100人というキーワードが出ましたが、社員100人のフェーズはCDOを迎える一つの目安になりそうでしょうか?

竹田:社員100人の壁を超えるタイミングではCDOがいた方がいいと思います。

社員100人までなら、創業者一人の熱さで全員をチームにできるし、チームになっていなくても強い個がいれば立ち上がっていくフェーズです。

でも100人を超えてくると、創業者一人の人治国家では「公平性」が失われていきます。わかりやすい例だと、社員の評価が属人的になったりして不公平が生まれます。

なので、法治国家としてルールや制度をつくらなきゃいけないタイミングです。そうじゃないと、たとえば社長が複数のマネージャーに権限委譲した場合、共通の判断基準がないと困りますよね。

社員100人の壁は、CDOを迎え、デザイン経営に取り組むタイミングの一つだと思いますね。

詳細は過去のnoteで説明しています。

ーー最近のスタートアップだと、創業期からCDOがいらっしゃることは普通なんですか?

セルジオ:どうでしょう・・・。本当にパフォーマンスを発揮できる人を迎えることはとてもむずかしいと思います。

ただ、CDOが就任すると会社のバリュエーションを上げることができるんです。要はプロトタイプをつくれたりするので、 出資を集めるためにデザイン責任者を登用するパターンは結構ありますね。

竹田:さっき私が感覚的に「最初から入れる」って言ったのはそれだ。

セルジオ:これはまさに「ブランド側の貢献」の領域で、CDO登用により企業価値を上げることができるんですよ。なので「ブランド側の貢献」に強い人を入れていくのも重要・・・という感じで、CDOの役割はフェーズによって違います。

竹田:なるほど。めっちゃ勉強になりますね。

CDO候補の探し方・育成

ーーそもそもCDO候補の方ってどこで見つかるのでしょうか?

セルジオ:基本的にはいません。なので、経営者の方に聞かれたときは、「デザイナーと一緒に育ってください」と伝えています(笑)。

スティーブ・ジョブズほどデザイン活用を感度高くやれる経営者はなかなかいないと思うんですよ。同時にジョナサン・アイブ(Appleの元CDO)みたいに経営レベルで活躍ができるデザイナーもなかなかいないでしょう。なので、お互いに育ちませんかと話しています。

端的に言うと、経営者とデザイナーが対話を通してお互いの景色を交換することによって、デザイナーはCDO的な振る舞いができるようになっていくと思うんですね。そのためには一定時間が必要だと思うので、最初から期待するのはやめましょうと。半年から一年くらいは、一緒に成長するつもりでやっていくことを一番オススメしています。

ーーCDOに向いている人の素質はどうやって見極めるとよいのでしょうか?

セルジオ:大事なのは、経営者が成し遂げたいことに共感しているかどうかですね。

なので、経営者の方に「一緒に育ちましょう」と伝えると同時に、目指しているビジョンだったり、その中でデザインの力がなぜ重要なのかということを、必ず世間に対して伝えるようにしてくださいとお話ししています。

そうすると、それに共感するデザイナーが来るはずです。

竹田:辻さんはnote、Facebook、X、社内のSlackと、いろんなチャンネルでものすごい発信しますよね。

セルジオ:私がマネーフォワードでCDOを担当する前、「AXIS」というデザイン誌で、日本トップクラスのデザイン会社の代表と辻さんが対談している記事があったんです。

それを見たときに、「うわ、すごいな」と思いましたね。辻さんはそれだけデザインに対してしっかりと考えて、事業戦略の一部に取り組もうと本気なんだなと思いました。私が辻さんやマネーフォワードに共感するポイントになりました。

経営者とCDOの理想的な関係性

ーー経営者の方とCDOの方の理想的な関係性ってあるんですか?

セルジオ:私は辻さんと定期的に1on1をしていて、辻さんの中長期ビジョンの壁打ち相手をしたり、辻さんの話をホワイトボードで整理して「こんなことを考えていますか?」と可視化したりしています。私としては、右脳の拡張みたいなことができるように振る舞おうとしています。

ーーCDOの視点から、経営者の方にこういう支援をもらえるとやりやすい、といったことはあるのでしょうか?

セルジオ:経営者が定性的な価値を信じていることです。

辻さんがまさにそうです。辻さんは、もちろん定量的なことは常に考えていますし、会議でも基本的に数字の話をしています。一方で、「これをすると何でユーザーさんに喜んでもらえるんだっけ?」という定性的な価値も常に意識しています。デザインは定性的なことに貢献できる部分も大きいので、その価値を理解してもらえているのは大きいと思います。

経営者のマインドセットが「9割9分定量です」という思考だと、結構つらいかもしれないですね・・・。定量は大事ですが、定性的な価値をどこまで信じられるかは、CDOの価値を最大化するうえでも重要だと思います。

ーー逆に竹田さんは、CDOの方やデザイナーさんと一緒に物事を進めるときに意識していることはありますか?

竹田:誰に対してもそうですけど、「自分の指示を聞いてもらおう」という姿勢とは真逆でなければいけないなと思っています。自分と伴走してくれている相手に、私の心の底にある抽象的なものを一緒にあぶり出したり、描き出してもらいたいと考えています。

コーチングに似ていると思います。 こうあるべきといった態度は手放して、柔軟性高く、素直に向き合った方が価値が出るんじゃないかと思うので、そのように意識していますね。

ーー横坂さんは理想の関係性についてどう思いますか?

横坂:まさにいまのお話につながるのですが、竹田さんとお話しするときもそうですが、「いまどういう風に感じていますか?」ぐらいシンプルな質問でも、一度フラットに捉えて、いろいろとお話しいただけるのは助かります。そうすると「ここは何かいい方向に解決ができるかも」というポイントを探しやすくなったり、お伝えしやすくなるなと感じますね。

ただ、関係性づくりからスタートするのはむずかしいこともあるだろうと思います。先ほどのセルジオさんのお話のように「共に成長する」ためには、経営者だけでなくデザイナー側も同じマインドを持つことがすごく重要なんだろうなと思いますね。

マネーフォワードビジネスカンパニー デザイン室 室長 横坂 圭佑

デザイン経営やCDOの評価

ーーちなみにデザイン経営やCDOの評価ってどうしているんですか?

セルジオ:3カ年の「デザイン戦略ロードマップ」を立てるようになってからは、四半期ごとや半年ごとに常にアップデートしながら、半期や一年ごとに振り返ることはしています。

定量的に判断できるものも一部はあります。デザイン組織のコンディションだったり、人数やグレード比だったり。あとはブランド調査のスコアなど。

ただ、やっぱりそれだけでは測りきれないですよね。 なので、あくまで定性的な状態をゴールに置き、どれだけそれに近づいているかを言葉ですり合わせる・・・ということもあります。

たとえば、辻さんとは感動レベルのプロダクトをつくろうと話していますが、「それはまだ達成できてないよね」といったイメージです。一方で、ブランドの方向性はマネーフォワードらしさをちゃんと言語化して、みんなが理解できる状態をつくることを目指していますが、それはガイドラインを策定することで「一定できてきているね」というふうにすり合わせています。

変化させるもの・変化させないもの

――みなさんがデザイン経営を実践する中でぶつかった困難はありますか?

横坂:マネーフォワードもそうですが、企業がスタートアップから急成長するタイミングってそんなにきれいに物事が進まないと思うんです。

デザインのミッションの半分程度は、中長期的なことや理想を考えることになります。なので、ミッションや目指す方向を定めるのは、創業期のタイミングでやった方がいいと思いますし、できることだと思います。

ただ、一定事業が成熟して方向性が固まるまでは、短期短期で設定を繰り返すこともあると思います。

その中でもどこは変えずにいくか、どこはどんどん変えていくかといったバランスを、経営者とデザイナーが伴走しながら考えるのが良いんだろうなと。中長期で目指すものと、短期で何を選択するかのバランスは、当社でもずっとむずかしいと感じているポイントです。

――変化させるものとさせないもの、どういう基準で判断するといいのでしょうか?

竹田:この事業をなぜやるのかというミッションと、ユーザーに対して価値提供するという「User Focus」。この二つがブレることはないと思います。

でも、やっぱり短期的になんとかしなきゃいけないことはあって、目先のことですごい頑張ったりせざるを得ないじゃないですか。そうすると、目線ってどんどん落ちていっちゃうんですよね。

スタートアップの経営って、うまくいかないことや「何やってんだっけ・・・」みたいなことがたくさんあると思うんです。信頼していたメンバーが辞めてしまったり、絶望的な気持ちになることもいっぱいあるんですよ。

そういうときこそ、ユーザーとその未来にピン留めしておかないと立ち上がれなくなるんですね。社員が増えるとなおさら船が重くなるから浮上するのが難しくなります。だからこそ、やっぱり常にビジョンやミッションを上に留めておかないといけないですね。

一方で、戦略や、戦略に応じた組織のあり方などはどんどん変えていいと思います。成長フェーズでは朝令暮改どころか“朝令朝改”の勢いで、アウトプットの質よりどれだけ量を出せるかという戦い方をした方が結果的に勝てますから。

横坂:すごく共感します。ビジョンやミッションを上にピン留めしつつ、デザインの中長期的なことや理想を追い求めることにとらわれ過ぎない。変化を楽しみながら、経営者とデザイナーが一緒に伴走することがとても大事だなと思っています。多分それはどのフェーズにおいても大事なんですけど、特にスタートアップや成長期では一番重要な気がしますね。

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取材・文/久住梨子(マネーフォワードビジネスカンパニー採用広報)