プロダクトのターゲット拡大でぶつかった3つの壁と、乗り越えた方法|マネーフォワード クラウドの進化を語ろう【Part2 プロダクトづくり】
『マネーフォワード クラウド』の成長を牽引した“これまでの進化”と、さらなる成長に必要な“これからの進化”について、経営メンバーにインタビューする「進化を語ろう」シリーズ。
第二弾は「プロダクトづくり」をテーマに、マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田と同CPOの廣原に話を聞きました。
今回のスピーカー
これまでの進化
――山田さんはマネーフォワード クラウドのプロダクトづくりをふり返って、「これは大きな進化だったな」と思うものはありますか?
山田:2020年頃の戦略の方針転換が大きな進化につながったと思っています。
この頃に、中小企業だけでなく中堅企業も使えるプロダクトへとターゲットを拡大。そして『クラウド会計』や『クラウド経費』といった個々のプロダクトから、バックオフィスシステムを網羅するERPへと進化していきました。
といっても、さまざまな壁にぶつかり、本当に方針転換すべきかは相当悩みました・・・。
【壁①】“中堅向け”のクラウド会計をつくるかどうかの判断
――順にお聞きしますが、2020年頃にどのような方針転換があったのでしょう?
山田:『マネーフォワード クラウド』は、2013年のリリースから2018年頃まで、主に個人事業主・中小企業向けにサービスをつくっていました。
ところが、2018年頃になるとユーザーがどんどん成長していき、IPOをめざす企業がちらほら出てきたんです。
IPOや上場企業となると、財務報告などで内部統制が必要になります。
中小向けにはなかった内部統制に対応できる機能が求められるようになってきて、社内でも中小だけでなく中堅企業の要望にも対応していくべきじゃないかという議論がはじまりました。
一方で私自身は、中堅企業やエンプラ企業に、クラウド会計が根付くかどうかは半信半疑だったんです。
――なぜそう思われていたのですか?
山田: 当時のクラウド会計のイメージって、極端にいうと「安さ」「手軽さ」が魅力で、中小企業向けの会計システムというイメージが強かったんです。
経費精算のような周辺サービスであれば中堅・エンプラ企業からも導入ニーズがあるんですが、会計という基幹サービスまで広がるかは疑問でした。
中堅・エンプラ企業における会計のトランザクション量や操作の速度感などを考えると、クラウドじゃなくてオンプレミスの方が適しているのでは・・・と正直思っていました。
なので、「中小企業に集中した方がいいんじゃないか」「本当に中堅・エンプラ企業を見据えたプロダクトに変えていくのか」という中堅向けクラウド会計をつくるかどうかの判断は相当悩みました。これが最初の大きな壁だったと思います。
――それでも開発を決意された理由は?
山田:お客さまの大きな期待があったからですね。つくると決まってからは、すぐに内部統制対応ができる中堅企業向けの『クラウド会計Plus』の開発に至り、2020年にリリースしました。
――廣原さんはちょうどその頃に入社されましたよね。『クラウド会計Plus』の話を聞いてどう思われましたか?
廣原:私は入社直後に『クラウド会計Plus』をリリースする話を聞きました。『クラウド会計』からの乗り換え待ちで、すでに何十社もの受注があるという話を聞いて、衝撃を受けましたね。
私は前職でエンタープライズ向けERPの開発をしていたんですが、会計ソフトのリリースでこれほど事前受注があるなんてすごいなと。
その受注企業リストを見たときにも衝撃を受けました。これまでのERP業界では見たことがないような、いままさに成長している企業のロゴが並んでいて、「こういうマーケットがあるのか!」と驚きましたし、想像以上にマーケットが大きいことも分かりました。
これはいろんな可能性があるなととてもワクワクしましたね。
【壁②】どんなクラウドERPだったら根付くかの検討
――『クラウド会計Plus』が誕生したことから、ERPを展開する流れになったのでしょうか?
山田:いえ、『クラウド会計Plus』のリリース段階では、ERP化の計画はまだ白紙状態だったんです。中堅以上の企業が使えるERPをつくろうとすると、とにかくプロダクトを山ほどつくらなければなりません。
中堅向けのシステムをつくる開発体制やノウハウといった組織のケイパビリティの観点からも、本当にクラウドでERPをつくれるかどうかはかなりのチャレンジになるな・・・と迷っていたのが本音です。
廣原:山田さんから相談いただき、ERPをどうしていくかディスカッションしていましたね。『クラウド会計Plus』はリリースしたけど、中堅向けに会計システム“だけ”あっても売れないよね、と。
山田:そうでしたね。これからERPに昇華させていかないと厳しいなと思うと同時に、大手ベンダーと同じようなオンプレミスの統合型ERPをつくってもしょうがないなとも思っていました。どんなERPをつくれば私たちのERPが企業に根付くのか、という戦略を考えるのも一つの壁でしたね。
――打開策は見つかったのでしょうか?
廣原:目をつけたのが、『クラウド会計Plus』の導入企業のような、いま成長している中堅企業にフォーカスすることです。
繰り返しになりますが、老舗の中堅企業というより、いままさに成長しているベンチャー企業から「中堅でも使えるクラウド会計」のニーズが顕在化していましたし、マーケットも大きい。ここに私たちの介在価値があるんじゃないかと思いました。
山田:統合型という点においても、それでいいのかなという疑問がありました。ERPといえば統合型が当たり前でしたが、「使いたいときに使える」「使った分だけお金を払う」というSaaSの本質とマッチしません。
私たちが手掛けるSaaSの本質を突き詰めていった結果、それぞれの企業の課題に応じた部分的な導入が可能な「コンポーネント型ERP」の考え方が生まれました。
廣原:こういった議論を重ねて、成長している企業のために、企業の成長フェーズにあわせてシステムを選んで使えるERPをつくることになりました。
▼マネーフォワード クラウドERP誕生時のコンセプトはこちら
【壁③】開発人員やノウハウ
――ERPの戦略がかたまり、次は開発のフェーズに入っていったんですね。
山田:開発に踏み込むフェーズで直面したのが開発人員とノウハウの壁です。ERPのラインナップを完成させるには、プロダクトを山ほどつくらなければなりません。
でも、国内開発リソースだけでつくろうとすると何年もかかってしまうんです。そのため、どこかでグローバルな開発体制が必要になるなと思っていました。
――その壁はどのように乗り越えていったのでしょうか?
山田:当時、経理財務領域においては中堅向けプロダクトはまだ2つしかありません。次に開発することになった『クラウド固定資産』は、コンポーネント型ERPをそろえていく重要な一歩目でした。
それを、ベトナム開発拠点でゼロからつくるというチャレンジをすることにしたんです。グローバルな開発体制の構築は、これからERP開発を進めるうえで重要な試金石でした。
――どのような点がチャレンジだったのでしょうか?
山田:ベトナム拠点でも以前からプロダクト開発は行っていたものの、今回は話が違います。日本の商習慣に合わせた、中堅企業向けの、日本基準の固定資産という領域で、ゼロからプロダクトをつくらなければなりません。
日本人でも難しい開発を、日本語が母国語でないグローバルメンバーが担当するのは非常に難易度が高かったと思います。
――懸念されていたノウハウの観点ではどうでしたか?
山田:幸運なことに、中堅・エンプラ向けのERP開発経験がある廣原さんが入社されたことでクリアしました。
『クラウド固定資産』のプロダクトマネージャーは廣原さんにおまかせしていましたが、正直なところ「減価償却費の計算ロジックとかどうすんだろうな」と思ってました(笑)。
廣原:詳しいドメイン知識が必要になる部分は、ノウハウを持った方々に業務委託で関わってもらいながら進めていましたね。
――実際にベトナムでの開発がはじまって大変だったことは?
廣原:一番大変だったのは日本と海外の働き方の違いです。海外では一社に長期間勤める文化がないので、プロダクトのリリース=プロジェクト完了と捉えられて、リリース日にみんなが辞めていく・・・ということが起こったんです。
いまは私たちも反省を活かして、ベトナム拠点に実際におもむき、直接英語でコミュニケーションを取りながら「SaaSにとってリリースはゴールじゃなくてスタートなんだよ」「SaaSはリリースしてからが面白いんだよ」と伝えています。最近では継続的に働いてくれるメンバーが増えてきましたね。
山田:マネーフォワード クラウドの歴史を振り返って、グローバルな開発体制ができたことが最も大きな進化の一つだったと思います。
「人月の神話」で人が増えればいいという話ではないですが、そうはいっても一人の天才がいたとしてつくれるものには限界があります。
大規模な開発体制が求められる場面でもそれを実現できているのは、グローバルな開発体制がつくれているからだと思います。
▼ベトナム拠点立ち上げに関する記事はこちら
これからの進化
細かい改善の積み上げこそ「本当の進化」
――マネーフォワードは中長期の財務ターゲットとして、FY28に売上高1,000億円(Businessドメインの構成比は600~650億円)を目指しています。この数字を達成するために、プロダクトにおいてはどんな進化が必要になると思いますか?
廣原:とにかく細かい改善を永続的に積み上げることです。マネーフォワード クラウドがこの10年間で大きく事業成長したのはそれができていたからだと思います。
意外なことに、2~3年はできても、10年20年と継続できる企業はそうないんですよ。プロダクト、人材、組織の成長など、なにごとも小さな積み重ねが大きな成果になると考えています。一発逆転を狙うのではなく、細かい改善を永続的に積み上げるのが本当の進化です。
――ビジネスカンパニーではなぜそれを実現できたのでしょうか?
山田:SaaSというサービス形態により、日々改善が必要になるというのはあるでしょうね。いつでも解約できるユーザーに対して、常に満足して使い続けてもらうためにも、毎日少しでも改善を積み上げていく。
やっぱりユーザーの期待に応え続けたいという想いがベースにあるんだと思います。
――社内でも「凡事徹底」という言葉を使う人は多いですよね。
廣原:これまで続けてきた細かい改善を、もっと細かく、もっと小さいことにもこだわるように進化していくことが大切だと思います。
目指す数字が大きくなればなるほど、考え方も大きくなっていきます。例えば売上10億円をつくるときは細部にまで目を配れていたけれど、1,000億円となると粒度が大きくなりますよね。でも、本当はその1,000億円を分解して、細かく細かく考えないとうまくいきません。
プロダクトも同じです。まず『クラウド会計Plus』が生まれたときは細かく考えられていたが、ERPの中の『クラウド会計Plus』となると考える粒度が粗くなるかもしれない。本当は、ERPをつくるからこそ、その中の『クラウド会計Plus』は以前よりももっと細かくつくらないと進化していけないんです。
だいぶ自分を追い込んでしまいましたが(笑)、繊細さにこだわったプロダクトづくりが必要です。
SaaS以外のFintechサービスをさらに強化
――山田さんは、今後の成長に向けてどんな進化が必要だと思いますか?
山田:私は大きく二つあるかなと思っています。
一つは、「届ける」部分を強化することです。
いいプロダクトをつくるだけでは1,000億円規模の売上を目指すのは難しいと思っています。SaaS業界では、いいモノをつくっても売れないということが普通に起こり得ます。
プロダクトを「つくる」だけでなく、セールス・マーケティング・カスタマーサクセスによる「届ける」ところのクオリティはますます重要になると思いますね。
もう一つは、SaaS以外のFintechサービスの強化が今後の柱になると考えています。
かねてから発信していますが、マネーフォワード クラウドはSaaSとFintechを掛け合わせた「SaaS×Fintech」戦略を掲げています。SaaSのよさの一つは、SaaSに蓄積されたデータをベンダーが利活用できることですし、それによりお客さまに新しい付加価値を届けられることです。
マネーフォワード クラウドはFintechサービスを掛け合わせているからこそ、競合のSaaS企業と差別化できる側面があります。すでにリリースしている『マネーフォワード Pay for Business』をはじめ、SaaS以外のFintechサービスの強化は必要だと思います。
▼SaaS×Fintech戦略の詳細はこちら
ーーありがとうございました。ERPラインナップやFintechサービスの拡充はさらなる進化に向け絶賛取り組んでいます。引き続きご期待ください!
▼マネーフォワードビジネスカンパニー経営陣のnoteはこちら
取材・文/久住梨子(マネーフォワードビジネスカンパニー採用広報)