デザインが事業にもたらした4つの大きな進化|マネーフォワード クラウドの進化を語ろう【Part3 デザイン経営】
『マネーフォワード クラウド』の成長を牽引した“これまでの進化”と、さらなる成長に必要な“これからの進化”について、経営メンバーにインタビューする「進化を語ろう」シリーズ。
第三弾は「デザイン経営」をテーマに、マネーフォワードビジネスカンパニーCOOの竹田、同CDOのセルジオ、同デザイン室室長の横坂に話を聞きました。
今回のスピーカー
マネーフォワードのValuesには「Tech & Design」という項目があります。私たちはテクノロジー、そしてデザインの力によって、世界を大きく変えることができると信じています。
そんな当社は、これまでプロダクトデザインに限らず、ブランド、経営と、さまざまな課題解決にデザインの力を活用してきました。
今回は、マネーフォワードビジネスカンパニーが事業や組織の運営にどうデザインを活かし、進化を遂げてきたかについてお話しします。
マネーフォワードとデザイン経営のはじまり
――まずは、マネーフォワードがデザイン経営を取り入れはじめた経緯について教えてください。
セルジオ: 2016年のMVVC(Mission Vision Value Culture)策定がきっかけのようですね。
辻さんのnoteでは、MVVC策定をリードしたデザイナー金井さんの働きに感銘を受けたことから、「デザイン思考」を意識するようになったとつづられています。
おそらく辻さんは、このプロジェクトをきっかけに「デザイン」というものにいろんな可能性を感じたんだと思います。
2018年には経済産業省が『「デザイン経営」宣言』を発表しました。当時の時代背景としても、スタートアップ界隈でCDO(Chief Design Officer)やCXO(Chief Experience Officer)といった役割を置いて、デザインを経営から取り入れようという流れができつつありました。
マネーフォワードにもともとあったデザインに対する期待と、世の中の大きな潮流となったデザイン経営がちょうど一致したのが、2018〜19年ぐらいの時期だったのかなと思います。
デザイン経営ってどんないいことがある?
――そもそも「デザイン経営」って理解が難しい概念だなと思っています。デザイン経営とは何なのでしょう?
横坂:「デザイン経営」の一般的な定義としては、デザインの力をブランド構築やイノベーション創出に活用する経営手法とされています。
マネーフォワードにおいても、それらを組織的に進めるために、さまざまな施策の上流からデザイナーが関わっています。複雑な情報の可視化や整理をし、良いアウトプットになるようリードすることが、デザインの重要な役割だと解釈しています。これにより企業競争力を高めることがデザイン経営のひとつの大きなゴールです。
セルジオ:最終的な成果をあげるまでのプロセスでも、貢献できることがいろいろあります。
デザイナーって、「結局それってどうなるの?」という抽象的なことを形にする仕事が多いんです。プロトタイピングしたり、 組織イメージをつくったり、ビジョンをつくったり。まだ形になっていないものを一旦見える形にすることで、みんなの議論が深まっていく。そういう役割を担う仕事だったりします。
ビジネスにおける思考法って、いわゆるロジカルシンキングやクリティカルシンキングといった、物事や課題を“分解”して筋道を立てていく分析的な思考法なんですよ。
デザインはもちろんそれもやりつつ、それらが“統合”された世界を描く必要があります。
ポスターのデザインでたとえてみましょう。「Aという言葉、Bという言葉、Cという図」とそれぞれ要素がある場合、これらをひとつにまとめて人に伝わる状態にするには、メリハリをつけたり、取捨選択したり、そこに関係性をつくったりする必要があります。
これは統合的なアプローチという、デザインにおける特徴的な思考法です。こういった考え方でさまざまな仕事の質を変えられるのは、デザイナーが貢献できる一つのポイントだと思います。
――竹田さんはカンパニーCOOとして、デザイナーさんとともに経営課題に取り組む機会が増えたと思います。デザイン経営によりどのような効果を感じましたか?
竹田:「そもそも何がしたいのか?」といった物事の本質にたどり着きやすくなったこと、さらにはその本質にみんなで一緒にたどり着くスピードが速くなったことが一番大きいです。
たとえば、私はいろんな場面でみなさんに説明責任を果たす役割を持っています。相手が10〜50人規模であれば、それぞれが考えていることや聞きたがっていることは、ある程度わかるんです。でも、500人、1000人となると、当然それぞれが聞きたいことは一つじゃなくなるし、分類したとしてもたくさんあります。
となると、メッセージを通じて最終的にみなさんにどういう状況になってほしいか、という本質的な目標から逆算してコミュニケーションを設計しないと、伝えたいことが伝わらないんです。
こういうときにデザイナーの方と一緒にメッセージをつくることで、とても質が高いものができあがります。みなさんにメッセージを届ける意味や効果が大きくなるし、お互い有意義な時間をつくることができる。
これはコミュニケーションデザインの範疇かなと思いますが、そういった場面での効果は日々すごく実感してますね。
――デザイナーさんが入ることで、なぜ本質的な目標を引き出すことができるのでしょう?
セルジオ:デザインとは、基本的には「誰にどう感じてほしいか」を考える仕事なので。
コミュニケーションデザインのお話だと、普通は「私は何を伝えたい」からはじまり、ストーリーを組んでいくんですよね。
でもデザインの考え方だと「どう伝わるといいか」「誰に伝えるのか」という最終的な体験を考えて、そこから逆算するように物事を整理していくんです。
竹田:デザイナーの方々は、User Focusのスペシャリストなんだと思います。
セルジオ:まさにそれを目指しています。
当社のデザイナーの行動指針をまとめた「Designer Credo」には、最初に「マネーフォワードのデザイナーは『User Focus』の体現者です」と書いてあります。
ここでの「ユーザー」とはお客さまだけでなく、あらゆるステークホルダーを包含しています。社内のメンバーに対してもそういう存在でありたいと思っています。メンバーが実現したい世界を、一緒に伴走して形にしていけたらと思っていますね。
デザインが事業や組織にもたらした4つの大きな進化
①ブランドの統合
――デザインの力によって、ビジネスカンパニーの事業や組織に進化をもたらした出来事について伺いたいです!
セルジオ:昔話になりますが、「バリューパック統合」というプロジェクトは、現在『マネーフォワード クラウド』という統合されたブランドを築くうえでとても重要だったと思います。
2019年当時は、事業成長のために『クラウド会計』や『クラウド経費』などいくつかのプロダクトをとにかく速く立ち上げ、それぞれ売上を立てていく必要がありました。そうするとプロダクトごとに個別最適が進み、開発もマーケティングもプロダクトごとに最適化された状態だったんです。
そんなバラバラなプロダクトたちを、『マネーフォワード クラウド』という一つのブランドに統合していく、一つの世界観にしていくというプロジェクトでした。個々のプロダクトがただ羅列されてるような殺風景なサービスサイトを、『マネーフォワード クラウド』を使うことでどんな課題が解決するか、ユーザーの仕事の質がどう変わるか、といった訴求をしたりストーリーページをつくったりしました。
バラバラだったプロダクトが一つの世界観で組み上がり、『マネーフォワード クラウド』という統合的なサービスによって、ユーザーにより大きな価値を提供できることが伝わりやすくなったと思いますね。
横坂:セルジオさんが言うとおり、 2019年頃と比べるといまは逸脱したクリエイティブがなくなりましたね。もちろん「プロダクト間のデータの連携性」や「シームレスな体験の提供」といった課題はまだまだ改善の余地があります。
でも、プロダクト開発やセールス・マーケティングなど、それぞれの目指す方向や認識が合うようになってきて、ユーザーに対して一貫性のあるコミュニケーションが取れるようになっていると思います。
ーー具体的にはどのようにその状態を実現したのでしょうか?
横坂:まずはプロダクトやマーケティングの制作物など、見える部分を整えるところからスタートしました。
それから徐々に、それらのプランニングだったり、プロダクト開発ではビジョン策定や意思決定の伴走など、デザイナーがさまざまな取り組みに入っていける状況をつくってきました。
各プロジェクトや施策を進めるメンバーのみなさんが「取り組みの本質は何だっけ?」「いま誰に向けて何をやるといいんだっけ?」といった解像度を高めることに、貢献していけたんじゃないかと思います。
②事業ドメインの整理
――竹田さんもデザインの力による事業の変化は感じますか?
竹田:めちゃめちゃ感じますね。私は具体的に二つあります。
一つは、事業ドメインの整理です。
いまはビジネス、ファイナンス、ホーム・・・と事業ドメインが分かれていますが、昔はそうじゃなかったんです。
私がジョインした2017年頃のマネーフォワードの様子はというと、家計簿アプリ『マネーフォワード ME』を運営していて、『ME』で活用していたアカウントアグリゲーション技術をほかにも応用してほしいというユーザーの要望も受けて『マネーフォワード クラウド会計・確定申告』をリリース。さらには金融機関向けのPFMサービスをはじめて・・・。
こんな感じで、それぞれのプロダクトが未熟な中、なんとか売上を上げるためにいろんな事業に手を広げている状況だったんです。そんな「ハウルの動く城状態」になっていたいろんな事業を整理する必要がありました。
「結局マネーフォワードはどういう世界をつくりたいのか?」という辻さんの設立趣意書を見直すところからはじまり、そのビジョンを実現する手段としてどの事業をやっているのか、ということを整理して、各事業ドメインが確立されていきました。
いまは事業ドメインがきれいに分かれていることが当然のこととして受け入れられていると思うんですけど、実はめちゃめちゃ発明だなと思っています。
ーーたしかに当たり前すぎて気にしたことがなかったです・・・!
竹田:この事業ドメインの分け方があるからいろんなことが効率的に進むし、最初から認識が一致している状況をつくれるし、事業や組織の再編もできるんですよね。分けているから再編が起きるわけじゃないですか。
この整理がないと、おそらく議論に時間を費やしたり、みんなの認識が合わなくなるでしょう。いわゆる「多義性」が解消されず、それぞれの理解や解釈がバラバラになりいつまでも議論が終わらない・・・というようなことが平気で起きていたと思います。
これだけ手広く事業を広げている会社が一体感を持って前に進めているのは、デザインの力があるからだと思っています。
③ミッションのアップデート
竹田:もう一つは、ビジネスカンパニーのミッションをアップデートするプロジェクトです。
現在のミッションは「ビジネスを前へ。働く人をもっと前へ。」 です。アップデート前は「ビジネスを加速する」というような言葉だったんですよね。
セルジオ:僕らはもっと人に寄り添って、一緒に考えながら課題を解決することをやっている。それって「加速する」だけじゃ言い表せてないよね、という話になったんですよね。
それならミッションをアップデートしようとなり、デザイナーから提案させていただいた流れでしたね。
竹田:新しいミッションは、ほんとうに言い得ているなと思っています。マネーフォワードのミッション「お金を前へ。人生をもっと前へ。」と同じトーン・構成でありながら、ビジネスカンパニーあるいはビジネスドメインが目指していることをそのまま全部包含しています。
「これって何のためにやるんだっけ」「次はどんな新規プロダクトに取り掛かるべきだっけ」といった、それぞれの施策や行動を見直し、初心に立ち返ることができます。だから、事業を進めるうえでのブレない軸ができあがっていると思っています。
実を言うと、マネーフォワードにジョインするまではデザインというのは見た目を整えることとしか思ってなかったんです。
でも、デザインが経営に入ることでこれだけ事業価値向上に影響があるということを知ってからは、戦略や財務、テクノロジー、人事と同じか、それ以上にデザインの担当者がいるべきだと強く思うようになりましたね。
④User Focusなプロダクトづくりの型化
セルジオ:ありがたいですね。ここまでブランド寄りの話をしたんですけど、プロダクトづくりの面でも変化があると思っています。
いまではPdMのみなさんを中心に、「ユーザーフォーカス・スクラム」というマネーフォワード独自の開発プロセスが日常的に使われています。これはデザイナー発のアイデアで、そこまで頻繁ではなかったユーザーリサーチなどをスクラム開発の中に組み込もうという取り組みからはじまったんです。
それ以外にも、インセプションデッキをつくるとか、ユーザーストーリーマップをつくるなど、社内にデザイナーが増えはじめた段階で横坂さんのチームが一定の型化を進めてくれました。それがいま社内で定着している状態です。よりUser Focusなプロダクトづくりが型化されていったのは、デザイナーの貢献もあったのかなと思っています。
これからの進化
――さいごに、ビジネスカンパニーの中長期的な成長に向け、「デザイン」においてどんな進化が必要になると思いますか?
横坂:プロダクトやクリエイティブにおいての「らしさ」をつくること。そのデザインを共通化し、プロセスの最適化と質を高めることがとても重要だなと思っています。
また、事業も組織も拡大していることで、社内コミュニケーションの複雑性がどんどん高まっています。事業部間の調整時間が増えているので、組織をまたいだプロセスの最適化にも着手が必要だと感じていますね。
セルジオ:デザイン組織という観点では、中長期で掲げている成長を実現するには、単純計算で2倍以上の人材が必要になります。でも、ほんとうに組織をそのまま2倍以上にするのか?という問いが、いま向き合っている課題です。
業務の仕組み化をはじめ、社員一人ひとり、そしてトータルのパフォーマンスや生産性を上げることで、いま以上アウトプットが出せる状態を目指すべきだろうと考えています。
そう考えたときに、現状の組織構造や仕組みでそれが叶うのか検証し、前に進めるのがいまの課題かなと思ってます。デザイナーだけじゃなく全職種で言えることですけどね。社員一人が発揮する価値は何倍にもなるわけなので、当然生産性を上げなきゃと思っています。
竹田:やみくもに数字を追うというよりも、成長に向けた戦略や打ち手をしっかり実行していくことが何より大事だと思っています。
いまの時代、トップダウンでおりてきたノルマをなんとか達成する、という世界ではないですよね。社員みんながワクワクしていて、熱中して仕事をしていたら目標を達成していたという世界をつくることが大切だと思うんです。
「がんばれ」って言われてがんばるんじゃなくて、自ずとモチベーションがみなぎりがんばれる状態に導く、組織のUIUXをつくることがとても大事だと思っています。
セルジオ:ビジョンを提示することはすごく大事ですよね。それはデザイナーとしても貢献できる大きなポイントです。
数年後に顧客価値が最大化してる状態と仮定して、それを実現しているのはどういうプロダクトなのか、どういうブランドなのかと逆算してイメージを具体化し、デザイナーからどんどん発信していけるといいなと思ってます。それがみんなのワクワクやモチベーションを生み、結果につながるといいですよね。
横坂さんの言う生産性向上はボトムを引き上げるアプローチ。そして、竹田さんの言うようなビジョンを掲げることでメンバーがワクワクしてコミットしたくなる未来を描く。この両面を組み合わせることで、デザインによる価値の最大化を実現できるんじゃないかと思います。
▼ 番外編につづく
取材・文/久住梨子(マネーフォワードビジネスカンパニー採用広報)