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成長の土台となった「事業戦略の立て方」|マネーフォワード クラウドの進化を語ろう【Part1 事業戦略】

マネーフォワード クラウド』の誕生からもうすぐ11年が経ちます。

たくさんのユーザーの皆さまのおかげで、サービス開始から10年以上が経ってなお、マネーフォワードのバックオフィスSaaS事業は業績・組織ともに年々大きな成長を続けています。

これまでの道のりは決して平坦ではなく、さまざまな進化を経て成長を実現してきました。この「進化を語ろう」シリーズでは、『マネーフォワード クラウド』の成長を牽引した“これまでの進化”と、さらなる成長に必要な“これからの進化”について、全3回にわたって経営メンバーに聞いていきます。

Part1:事業戦略
Part2:プロダクトづくり
Part3:Coming soon…

※テーマや公開日程は変更になる場合があります。


今回のテーマとスピーカー

第一弾となる今回のテーマは「事業戦略」です。

『マネーフォワード クラウド』を中心とするバックオフィス向けSaaS事業の成長を支えてきた「事業戦略」について、マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田に話を聞きました。

山田 一也/Yamada Kazuya
マネーフォワード グループ執行役員
マネーフォワードビジネスカンパニー CSO
2006年に公認会計士試験に合格し監査法人トーマツに入所。その後、株式会社パンカクにて執行役員CFO、株式会社Bridgeにて執行役員ベンチャーサポート事業担当を経て、2014年にマネーフォワード入社。社長室長、『マネーフォワード クラウド』開発本部長を経て、現在はSaaSサービスを展開する、ビジネスカンパニーCSOとして戦略全体を統括。

これまでの進化

成長の土台となった「事業戦略の立て方」

――今日は『マネーフォワード クラウド』の成長を支えた事業戦略をテーマに話を伺いたいと思います。早速ですがビジネスカンパニーではどのように事業戦略を立てているのでしょうか?

マネーフォワードではCSO(最高戦略責任者)がトップダウンで事業戦略を策定するのではなく、各事業部の本部長が各事業の事業戦略を立案する方式を採っています。

この方式を採る背景には、SaaSのビジネスモデルが関係しています。

SaaSビジネスは、製造業などの大型投資を行いビジネスをスタートさせる事業と違い、日々ユーザーの声をヒアリングしながら開発ロードマップを修正し、営業やマーケティング活動を行い・・・と、デイリーで戦い方を見直していくようなビジネスモデルです。その前提にたつと、トップダウンで戦略を立てるよりも、一定ボトムアップで戦略を立てていく方が事業の成功率が高いと考えています。

日々変化する状況に対して、適時適切に戦略や戦術を練っていくことが重要なので、現場に近く、かつ各事業の責任者である本部長が立案することでそれを実現しています。

――戦略立案の裏側をはじめて知りましたが、ビジネスモデルを考えると納得しました。

マネーフォワードはテックカンパニーなので、事業戦略の中でもプロダクト戦略が中心になるのも特徴の一つですね。

事業戦略を立てるステップはこうです。
まずは世の中にいま必要とされているプロダクトソリューションは何かを考えて、それを実現するためのプロダクト戦略を練ります。次にプロダクトを世の中に届けるためのセールス・マーケティング戦略、そしてこれらを実現する体制作りのための人事・組織戦略を考えます。

これらをワンパッケージにしたものを事業戦略と呼んでいますが、基本的にプロダクト戦略が起点になりますね。

なのでトップダウンやボトムアップということでもなく、市場や顧客の解像度が高い人を中心として事業戦略が生まれる、というのがマネーフォワードのスタイルです。

――ビジネスカンパニーは現在10を超える事業本部がありますが、それぞれの本部で立案される戦略の考え方や目線はどうやって統一しているのでしょうか?

特にルールや方針は設けていません。

ただ、事業戦略を立てるためのサポートアイテムとしてフレームワークを提示しています。これにより考え方や目線は平準化されているかもしれませんね。

マネーフォワードは年に一度、各事業年度の事業戦略を策定しています。各本部には事業戦略を立てるための「戦略シート」をフォーマットとして配布しており、そのフォーマットに沿って内容を詰めてもらっているんです。

事業のミッション・ビジョンから始まり、事業環境やそれに対して取るべき戦略の分析はもちろんのこと、事業戦略を考える上で、「この観点について検討した方がうまくいくことが多い」という過去の経験則にもとづいた項目を順に検討していく内容になっています。その時々のトレンドも考慮するなど、毎年少しずつ変化を加えていますね。

各本部で戦略シートを完成させたら、ますはビジネスカンパニー内でCSOの私やCOOの竹田さんとの擦り合わせを行い、その後取締役がレビューを入れ、修正したり打ち返したりの壁打ちを繰り返して、ブラッシュアップしていきます。

――戦略シートに沿って内容を記載していくとかなりのボリュームになりそうですね。戦略を立てるうえで、特に重視していることや工夫していることは何でしょうか?

User Focusを実現するために、ユーザーペインを理解することをまず大事にしています。それを深く理解しないと、事業の戦略や方向性を考えることはできません。

マネーフォワードのValues(行動指針)のひとつである「User Focus」

その他だと、高い目標を掲げることでしょうか。目標を高く掲げるためには、根拠を持たせすぎないことをポイントにしています。

根拠を持った目標は、それはそれでとても大事です。「こういう戦略のもと施策を進めると、これぐらい事業が伸びるだろう」という仮説思考で目標を立てることは当然重要ですよね。

一方、仮説が何もない中で、「どうやってその目標を実現するか」を考え続けるプロセスもとても大事です。先ほどの戦略シートには、そういった仮説思考力をつけるための項目も設けています。

――お話を伺っていると現状のプロセスで精度の高い事業戦略が作れそうですが、山田さんとして改善したい点はあるのでしょうか?

現状でも一定ワークはしていますが、改善すべき点はまだまだあります。例えば、振り返りをより強化したいと思っています。

事業戦略を立てたうえで期はスタートしますが、実際に2~3か月運営してみたら仮説通りに行かなかった・・・ということは、SaaSビジネス特有のスピード感のある環境では普通に起こり得ます。それに対して、各本部長はその都度「この戦略はうまくいった」「これはうまくいかなかったから切り替えよう」と状況に応じて柔軟に戦術を変化させながら事業運営していくんですね。

その過程で考えたことは、現状では各本部長の頭の中にしかないのですが、本来は言語化して残しておいた方が良いと感じています。漏れなく気付きや知見を残すことで、次年度の事業戦略に役立つ可能性が高いですから。

事業戦略策定のプロセスって、戦略シートに記入された内容を見ながらディスカッションすることで、「この方針で進めていこう」という皆の“脳内同期”を取る効果があります。なので、年に一度の事業戦略策定のタイミングだけでなく、その後どんな状況変化があって、どう戦略や戦術を変更して行ったのかまで文字として残すことができれば、その部分についても脳内同期ができますし、組織のノウハウにしていくことができるのではないかと思います。

――事業戦略の立案だけでなく、それを計画通り実行するという点についても伺います。山田さんは事業運営のフェーズではどんな役割を担っているのでしょうか?

ビジネスカンパニーのCSOとしては大きく二つの役割を担っています。

一つはリソースアロケーションです。各本部の戦略をそのまま全部やりきろうと思っても、ヒトやカネなど自社の経営資源には限りがあります。
ビジネスカンパニーにおいて「カンパニーの全事業のうち何を優先するか」を考えるのは私の役割です。ただ、各本部における予算の割り当ては本部長の判断で行っています。

リソースアロケーションはヒトやカネの割り当てだけでなく、一年間、何に注力すべきなのか、どういったバランスで運営すべきか、という各事業戦略の上段にくるカンパニー全体の大方針作りとも言えるのかもしれません。

――もう一つの役割はどういったものでしょうか?

もう一つは、ビジネスカンパニー内外の組織を横断するような大きい経営イシューについて考えることですね。

事業を運営していく上で、どうしても当初の仮説から外れる部分や、追加で検討すべき部分が出てきます。そういった経営イシューが何かを特定したり、どう対応すべきか検討するのは、本部長だけでなく私の役割でもあります。

もちろん経営会議などで数字やKPIの進捗も確認していますが、それは計画通りに進捗しているかの確認というより、むしろ、新たな経営イシューが生まれていないか、すでに発生している経営イシューの解決はうまくいってるか、といったチェックを目的にしています。

あとは、一本部では完結しないような、本部間やグループ会社間とのシナジーの創出といった経営イシューについて考えるのも私の役割です。

――マネーフォワードはこれまで業績予想を下回ったことがありませんが、計画をやりきれることもすごいなと思っています。これには何か理由や工夫があるのでしょうか?

そもそも実現可能な事業戦略を立てるということに尽きます。

事業戦略って、気合ドリブンで絵に描いた餅ではダメで、実現可能性をあわせてイメージできていることがめちゃくちゃ大事です。戦略を立てたとき、 それを実現するための戦術が大量に思いついていない戦略は実現しないんです。

ビジネスカンパニーでは、前述した戦略シート上に経営メンバーが納得するような戦術を複数挙げてもらっていますし、戦術部分の壁打ちにも時間をかけています。

戦略に紐づいた実現可能な戦術を考え、期がはじまったあとはそれらを実行するだけという状態が本来あるべき姿だと思います。計画通りに行かず途中で戦術が尽きてしまい、どうすべきかは一年走りながら考える・・・というパターンに陥ると、目標達成する難易度や複雑性が格段に上がります。

あとは、組織全体に仮説思考が根付いているのも目標達成に寄与していると思います。事業が計画通りにいかないときに、「うまくいかなかった」で思考停止するのではなく、「うまくいかないからこう切り替えよう」と軌道修正できているのは、戦略立案をはじめ日々仮説思考力が鍛えられているからではないでしょうか。

『マネーフォワード クラウド』のサービス開始からいまに至るまでの11年間で、事業戦略の立案や実行における小さな進化や改善の積み重ねがあり、いまの事業や組織の成長を実現していると思いますね。

グループジョイン(M&A)がうまくいった理由

――次に、事業や業績インパクトの大きいグループジョイン(M&A)についてお聞きします。グループジョインは基本的にはどういうタイミングで検討しているのでしょうか?

グループジョインの可能性は常に探っています。

ユーザーの課題に対して自社にプロダクトや機能がない場合、まずは自社で開発することを検討するのですが、その過程で当然世の中のサービスをリサーチします。自社でゼロから作るより、すでにあるサービスによってユーザーの課題解決ができるね、という総意になった場合にグループジョインを相談する候補先として浮上します。

そこからはひたすら先方との関係づくりです。グループジョインは当然先方ありきのことなので、マネーフォワードないしはビジネスカンパニーにグループジョインしたいと思ってもらえるように関係づくりを続けます。

――グループジョインの判断基準は、そのサービスの市場シェアや機能になるんですか?

いえ、ビジネスカンパニーが解決したい“課題ドリブン”です。前述した競合リサーチの過程で、自分たちよりもいいプロダクトを持っている会社があれば、いわゆるM&Aのロングリスト・ショートリストにリストアップしていきます。

――グループジョインした会社はいずれも成長を維持し、ビジネスカンパニーの事業や業績拡大に大きく寄与してきたと思います。PMIしたのは何がポイントだったんですか?

まずはグループ各社のプロダクトが優れているからです。それは当然の話で、リストを作るときにその市場を徹底的にリサーチし、その中から優れていると思えるプロダクトだけを候補にあげています。

ではなぜプロダクトがいいのに、グループジョイン後にさらに成長するのかという点ですが、過去を振り返ると、セールスやマーケティングに課題があるケースが多かったと思います。現在はその部分を当社がしっかりサポートできているのだと思います。

これからの進化

さらなる進化に向けた「データ基軸の考え方」

――マネーフォワードは中長期の財務ターゲットとして、FY28に売上高1,000億円(Businessドメインの構成比は600~650億円)を目指しています。

「2024年11月期 第2四半期決算説明資料」P45参照

事業戦略を考える上で、今後何が必要になるか、山田さんの考えを教えてください。

これまではインボイス制度といった大きな法令改正が市場の追い風としてあり、世の中の企業や個人事業主の方々も、とりあえず対応しなければいけない状況でした。そのトレンドがいま落ち着いた状態です。

そんな市場環境においても、お客さまが「日常のこういった課題を解決したい」と思うインサイトを、プロダクト作りにおいても、セールス・マーケティングにおいても、より一段深い顧客理解を持って考えていく必要があると思っています。

初心に立ち戻り、「User Focus」を追求することが大切だと思います。

――さらなる事業成長のためには、どのような進化が必要だと思いますか?

一つ大きく変化があるとすると、「コンパウンド」という概念ですね。

データを基軸とした事業展開が重要になると思っています。
いままでは『マネーフォワード クラウドERP』『クラウド経費』『クラウド会計』といったプロダクトカットで戦略を考えてきました。

ですがこれからは、私たちが持っているデータを軸にして、データカットでユーザーの課題を解決するソリューションを考える必要があります。

これまではユーザーの業務課題の観点からプロダクト戦略を考えてきましたが、いまやどの市場もプロダクトや機能が充実しています。

今後より付加価値の高いサービスを提供しようとすると、『マネーフォワード クラウド』等に蓄積されたお客さまの入出金データや従業員データを軸にして、どうお客さまの課題を解決できるかを考えていく頻度や割合を増やしていく必要があると思っています。

「2024年11月期 第2四半期決算説明資料」P21参照

――データを活用した新しい事業を検討するということでしょうか?

データを使ったビジネスを始めるというより、考え方のフレームワークの話です。

戦略を立てるときにペルソナを設定しますよね。例えばHR領域のプロダクトを手掛けるチームは、人事労務担当者をペルソナに設定し、彼らの業務課題を理解して、ソリューションを考えます。

そのペルソナを、人ではなくデータに置き換えるんです。

「世の中には入出金データというものがあって・・・」
「世の中には従業員データというものがあって・・・」
「世の中には支払い予定の証憑データがあって・・・」

といったデータ起点で考えるイメージです。

人ではなくデータを基軸に、そのデータを生産的・効率的に扱えているかどうかという課題設定をして、この課題を解決するための戦略、ソリューションを考える。結果として新規事業やプロダクトができることもあれば、既存プロダクトの機能改善につながるかもしれません。

こういった考え方が、今後さらに事業を進化させるために必要だと思っています。

――ありがとうございました。今回は「事業戦略」をテーマに話を伺いました。山田さんには次回以降のシリーズにも登場いただきます。次回のnoteも皆さまお楽しみに!


▼マネーフォワードビジネスカンパニー経営陣のnoteはこちら


取材・文/久住梨子(マネーフォワードビジネスカンパニー採用広報)