インボイス制度は、請求業務のデジタル化・会計システムのクラウド化の後押しに
2023年10月1日より、インボイス制度が開始されます。
インボイス制度は、従来業務に大きな変化をもたらすことが予想されており、その対応を負担と思われる事業者の方も少なくないと思います。
一方で、インボイス制度をきっかけとして、企業の請求業務周辺のDXが社会全体で進めば、紙の請求・支払業務に悩む方々が新しい働き方を実現できるチャンスになるかもしれません。
そういった思いから、マネーフォワードでは、#インボイスフォワードプロジェクトとして、インボイス制度開始に向けて紙の請求・支払業務のDXを推進し、1人でも多くの方にもっと自由な働き方を実現する一助となることを目指してきました。
制度施行まで約1年4か月となり、より詳細に実業務への影響や企業として対応すべき内容が見えてきました。
「インボイス制度」とは何なのか?
事業活動に実際にどんな影響があるのか?
マネーフォワードとしてはどんな対応をしていくのか?
本noteでは、マネーフォワードビジネスカンパニーCSO(Chief Strategy Officer/最高戦略責任者)の山田が、いま伝えたいインボイス制度について書いていきます。
インボイス制度で、実務はなにが変わるのか?
みなさんこんにちは、マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田です。
昨年の7月、国税庁より、「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」というパンフレットが公開されました。
それによると、「適格請求書発行事業者登録申請」が2021年10月から開始されており、制度が開始される2023年10月1日から登録を受けるためには、2023年3月31日までに登録申請手続きを行う必要があります。
まだまだ対応は先でいいと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、すでに登録申請は開始されていて、登録申請提出期日までは1年を切っているという状況です。
では、インボイス制度により、企業の実業務では何が変わるのでしょうか。また、「適格請求書発行事業者」に登録しないとどうなるのでしょうか。
すごくざっくりお伝えすると、これまでは、支払請求のための「請求書」を、誰でも、どんなフォーマットでも送って問題なく、仕入税額控除(※)も受けることができました。
ところが、インボイス制度開始後は、仕入税額控除を受けられるのは、事前に登録した事業者(=適格請求書発行事業者)が送付するものだけで、しかも、適格請求書(=インボイス)のフォーマットも、定められるものに準拠しなくてはいけなくなります。
つまり、インボイス制度により、企業の請求書周りの業務に大きな変更が迫られ、「適格請求書発行事業者」に登録しないと、取引先が仕入税額控除を受けられなくなるということです。
(※)「仕入税額控除」の詳細については、2021年6月に公開したこちらのnoteをご覧ください。
インボイス制度への対応は、請求書の「発行」と「受領」の2つの側面で考える
では、仕入税額控除の適用を受けるためには、企業実務において、具体的にどのような対応が必要になるのでしょうか。
企業における実務上の対応は、以下2つの側面から考えるとスムーズです。
請求書「発行」業務における対応
請求書「受領」業務における対応
1. 請求書の「発行」業務における対応
一つ目は、請求書発行業務における対応です。
「適格請求書(=インボイス)」を発行するためには、まずは「適格請求書発行事業者」への登録が必要になります。
次に考えたいのが、「適格請求書(=インボイス)」フォーマットへの準拠です。
具体的には、「適格請求書発行事業者」としての登録番号のほか、「適用税率」「適用税率毎の消費税額」などの記載が必要になります。
さらに、交付した「適格請求書」は、写し等の保存が必要になります。
発行した請求書については、これまで保存の義務がなかったものなので、書類の保存運用について、新たな業務が発生するということです。
請求書発行ツールやPDF等で電子的に請求書を発行するのであれば、一定のデータ保管運用ルールを開始する必要がありますし、紙で発行している場合には、コピー・ファイリングの運用や新たな保管場所を検討することも考慮しなくてはいけません。
2. 請求書の「受領」業務における対応
二つ目は、請求書受領業務における対応です。
請求書受領において、まず対応が必要になるのが、電子帳簿保存法に則った、帳簿および適格請求書などの請求書等の保存です。
2022年1月に施行となった改正電子帳簿保存法では、電子取引における電子データ保存が義務化されました。
現在は「やむを得ない事情」がある場合には2022年1月から2年間は紙での保存も容認される宥恕措置が取られていますが、2024年1月以降は、電子取引における紙での保存は認められません。
つまり、電子的に受領した請求書は、電子データとして保存する必要があります。
さらに、受領した請求書が、「適格請求書(=インボイス)」かどうかを確認する作業が必要となります。
つまり、請求書発行者が「適格請求書発行事業者」どうかを、受領側で確認する必要があり、具体的には、登録番号や名称が「適格請求書発行事業者公表サイト」に記載のある事業者かどうかのマッチング作業が必要になるということです。
インボイス制度で高まる、請求業務のデジタル化
このように、請求書の発行側・受領側の双方で、多くの対応が必要となってくるわけですが、これを紙の請求書や、アナログ作業で対応しようとすると大きな負荷がかかります。
発行側では、請求書控えを紙で保管することになると、コピーやファイリングの手間も発生しますし、保管場所の確保も必要になります。
受領側では、インボイス制度開始後も、紙と電子が入り混じることが予想されますが、紙の請求書は紙で保管、電子請求書は電磁的に保管となると、書類の管理が非常に煩雑になります。
この場合には、紙で受け取った請求書も、電子で受け取った請求書も、一元的に電子保管することが、検索性や管理コストの面からも、求められてくるのではないかと考えています。
また、「適格請求書(=インボイス)」かどうかを確認する作業についても、その確認作業をツールに任せることができれば、毎回サイトを見に行かなくても、自動で判定ができるようになります。
このようなことから、インボイス制度開始を機に、請求業務のデジタル化へのニーズが高まる可能性を感じていますし、クラウドによって、請求業務の負荷を減らすお手伝いができるのではないかと考えています。
「マネーフォワード クラウド」の対応
「マネーフォワード クラウド」では、請求書の発行・受領双方の業務において、業務プロセスの改善につながるサービスを提供しています。
これまでにリリースしたサービスや機能、また今後の予定についてご紹介します。
1.インボイスの登録申請サービス
「適格請求書発行事業者」の登録申請開始にあわせ、2021年10月1日より「インボイスの登録申請サービス」を開始しました。サービスサイト上からいくつかの質問に回答し、フォームに沿って必要な情報を入力するだけで、手書き不要で簡単に無料で、登録申請書を作成できます。
2.請求書発行サービス
請求書発行サービスとして、個人事業主様・中小企業様向けには「マネーフォワード クラウド請求書」、中堅エンタープライズ・成長企業様向けには「マネーフォワード クラウド請求書Plus」を提供しています。
インボイス制度開始後に必要となる、発行請求書控えの保存については、すでに電子帳簿保存法に即して自動保存される仕組みとなっており、保存方法に悩むことなく安心してご利用いただけます。
また、適格請求書フォーマットとして必要とされる記載事項についても、制度開始までに順次対応予定です。
3.請求書受領サービス
請求書受領の対応については、「マネーフォワード クラウド債務支払」を提供しています。
「マネーフォワード クラウド債務支払」は、紙の請求書は、スマホカメラでの撮影やスキャン等によってデータ化したうえで取り込み、電子ファイルの請求書はそのままアップロードすることで、紙の請求書も電子請求書も一元管理できるサービスです。
4.請求書受領業務の効率化支援機能
また、事務処理効率化を目的として、「請求書メール自動取込機能」を昨年11月にリリースしました。
これは、PDF形式の請求書が添付されたメールや、請求書作成ソフトから送付されたメールを自動で解析し、請求書データとして取り込む機能です。
受取側は手入力の手間や転記のミスなく、支払に必要な情報(支払依頼情報)を取得し、請求書データをクラウド上に保存することが可能です。
さらに、ECサイト等での購入の際に電子的に発行される請求書については、「マネーフォワード クラウド会計」「マネーフォワード クラウド確定申告」の「証憑自動取得機能」により、自動で保存される仕組みがすでに実装されています。
5.今後の対応予定
今後は、売手が適格請求書発行事業者かどうかの確認のための「適格請求書発行事業者の自動判別機能」の実装や、「証憑自動取得機能」の対応サービスの拡充、さらに、より請求書受取を便利にする新サービスのリリースも予定しています。
請求業務を電子化・デジタル化することで、さらなる業務効率化や、働くことの「質」と「時間」を高めるお手伝いができるよう、今後も順次、機能追加を進めていく予定です。
その他、インボイス制度についての基本情報や、インボイス制度に対応するうえでのお役立ち情報、「マネーフォワード クラウド」での対応機能については、インボイス制度の特設サイトに掲載しています。
インボイス制度対応のその先の未来
1.会計システムのクラウド化
ここまで、インボイス制度開始を機とした、請求業務のデジタル化について書いてきましたが、今後、さらに進むと考えている会計システムのクラウド化についても触れていきたいと思います。
請求書の発行をデジタル化したり、受け取った請求書を電子的に保存したりしていくと、自社の請求データが、クラウド上に溜まっていきます。
そして、そのデータを会計システムに連携することができれば、仕訳の登録や支払業務も、より効率的に実現できる世界になっていきます。
これまで、会計システムを検討する際には、会計システムを起点として、既存のオンプレミス型やインストール型ソフト、エクセルを選択した事業者が多かったように思います。
ただ今後は、請求業務をデジタル化したら、せっかくなので会計業務もクラウド化しようという声も多くなるのではないでしょうか。
つまり、インボイス制度を契機に、請求業務フローが見直されたりDXが進むことによって、その後続業務としての会計業務もクラウド化するインセンティブが今まで以上に高まるということです。
そういったユーザーに向けても、「マネーフォワード クラウド会計」をはじめとしたサービスにより、会計業務のDX化のお手伝いができますし、そうすることが我々の使命だと思っています。
2.「Embedded Finance」の盛り上がり
もう一つ、インボイス制度開始のその先の未来には「Embedded Finance」の盛り上がりが来るのではないかと考えています。
今後、請求業務のデジタル化が普及すれば、請求データがクラウド上にどんどん溜まっていく状態になりますが、残念ながらその先の送金や振込作業はシームレスには行えていない状況です。
具体的には、受領した請求書が自動的に「マネーフォワード クラウド債務支払」に保存されたとしても、その先の振込業務は、一部金融機関についてはAPI連携しているものの、大半の金融機関では、経理担当が銀行送金用にデータを手動で作り、ファイルをダウンロードした上でインターネットバンキングからアップロードして支払う、といったことが行われています。
これは「SaaSと金融との間の分断」だと考えており、それを滑らかにするには、「Embedded Finance(=組み込み型金融)」による解決が求められてきます。
私たちがSaaSサービスとして提供する「マネーフォワード クラウド」には、すでに多くのデータが蓄積されています。
例えば、「マネーフォワード クラウド債務支払」に蓄積された、受領請求書データを使って、「マネーフォワード クラウド」内で支払業務をシームレスに行うことができれば、非常にいいユーザー体験を提供できると考えています。
私たちが提供しているSaaSサービスにFintech要素を付加する、つまり「SaaS×Fintech」サービスの展開を進めていくことで、「SaaSと金融との間の分断」を少しでもなくし、今後も、さらなる業務効率化や事業強化に貢献していきます。
マネーフォワードは、「#インボイスフォワード」プロジェクトを推進しています
「“紙の請求・支払業務” に悩む人を応援し、請求・支払業務をもっと前へ。 」をコンセプトに、紙の請求書の電子化を推進し、世の中から紙の請求・支払業務で悩む人をなくすことを目指したプロジェクトを行っています。
新型コロナウイルスの感染拡大によりリモートワークが浸透したことで、紙の請求書の受取・発送・管理等の業務負荷や、請求書対応のための出社など、紙の請求・支払業務による多くの課題が生まれています。
本プロジェクトを通じて、請求・支払業務をアップデートし、自由な働き方の実現や、紙を削減することでサステナブルな社会を目指します。https://biz.moneyforward.com/pr/invoice-forward/
「“紙の請求・支払業務” に悩む人を応援し、請求・支払業務をもっと前へ。 」進めていくための、仲間を募集しています。