【前編】マネーフォワードにおけるSaaS×Fintechの歩みと描く未来
こんにちは。マネーフォワード広報の田淵です。
マネーフォワードで初めてのバックオフィス向けSaaS、『マネーフォワード クラウド会計』が誕生してから10年が経ち、マネーフォワードビジネスカンパニーが展開するSaaSプロダクトの数は20以上になりました。
さらに、近年はSaaSとFintechを掛け合わせた「SaaS×Fintech」領域でのサービス展開を進めています。
「SaaS×Fintech」は、SaaSサービスにFintech機能を埋め込むことによって、SaaS上で支払いや資金調達などのFintech機能をシームレスに使える環境を実現する取り組みです。
今回は前編・後編の2回に分けて、マネーフォワードのSaaS×Fintechの取り組みを振り返りながら、これからどのような未来を目指しているのか、キーパーソンである二人へのインタビューを通してご紹介します。
今回お話を聞いたのは
マネーフォワードにおけるSaaS×Fintechの歩み
①Fintech創成期:データの民主化を進めたアカウントアグリゲーション技術
ー マネーフォワードにおけるFintechの始まりは、金融データをSaaSに連携する、アカウントアグリゲーションですね
山田:もともとアカウントアグリゲーション技術は、お金の見える化サービス『マネーフォワード ME』で複数の銀行口座やカード情報を一覧で見える化するために使っていた技術です。それを、法人向けに活用して2013年に誕生したのが『マネーフォワード クラウド会計』です。
私はマネーフォワードに2014年に入社する前、ユーザーとして『マネーフォワード クラウド会計』を使っていました。インストール型の会計ソフトの場合、データを見るためにクライアントの会社に行ったり、メールでデータを送ってもらったりと工数がかかりますが、クラウド会計では銀行口座やカードの情報を連携でき、いつでも最新のデータを扱えるという点が非常に革新的に感じました。この体験がマネーフォワードへの入社に繋がっています。
冨山:アカウントアグリゲーションは便利な機能ではあるのですが、開発は結構大変でしたよね。マネーフォワードは東京に登記があるため、基本的には地方の銀行口座は開設できず、アカウントアグリゲーションの検証もできません。そのため、例えば長野のお客様から長野の地方銀行の口座を『マネーフォワード クラウド』に連携したいというお申し出をいただいた場合には、長野のお客様のところに直接出向いてご希望の銀行の連携情報をもらい、検証と開発を進める必要がありました。
山田:当時はテストアカウントも無かったので、社内で「〇〇銀行の口座を持っている人いますか?」と呼びかけて、その人の口座で検証を行っていましたよね。お客さま、社員含めて本当にたくさんの人に支えられて、少しずつ開発が進んでいきました。当時の地道な努力の結果、今では2,000以上の金融サービスと連携することができます。
今の定義ではアカウントアグリゲーション技術がFintechに当てはまるか少し微妙ですが、当時マネーフォワードが行っていたサービスは、間違いなくFintechの始まりだったと思います。当時は、金融機関にあるデータは、ユーザーのデータでも金融機関側でしか扱えないという閉じられた状況でしたが、それをユーザー自身に開放して、データを民主化していくというところに共感してくださる方が多かったですね。
ー 新しい技術に対するユーザーの反応はどうでしたか?
山田:『マネーフォワード クラウド会計』リリース直後は、否定的な意見を頂戴することも多くありました。マネーフォワードという会社自体の知名度も低かったので、知らない会社に金融データを預けることへの不安があったのだと思います。
冨山:会計ソフトは、企業の経理担当ないしは顧問をしている会計士・税理士のみなさまにとっても大事な商売道具です。だからこそ最初は抵抗を感じる方も多かったですよね。それでも、ビジョンや将来性に共感いただき、使っていただいた初期ユーザーの方には本当に感謝しています。そのような初期ユーザーの方から意見を聞き、サービスもアップデートしていくことで、徐々にユーザーも増えていきました。
ー マネーフォワードでは2015年にFintech研究所設立、2016年に「FinTech入門」を出版するなど、Fintechについて広める取り組みをしています
山田:Fintech研究所の設立直後は日本で「Fintech」という言葉も浸透しておらず、メディア向けの勉強会を開催しても数人しか来ないということもありました。研究所長の瀧さんが地道にメディアへの寄稿や勉強会を続けることで、今では日本でもFintechという言葉が多くの場面で使われるようになっています。
冨山:そういう点で、Fintechという概念を日本に持ち込み、定着させたのはマネーフォワードと言えるのではないでしょうか。
山田:そうですね。当時は提供している機能がFintechかどうかはあまり意識していませんでしたが、ユーザーの求める機能を作っていった結果、いつの間にかFintech領域にいたという感覚があります。アカウントアグリゲーションの技術で金融機関のデータをユーザー自身が扱えるようになる点に価値を感じてもらえていたので、Fintech的な機能は確実にニーズがあると考えていました。
ー 『マネーフォワード クラウド』提供開始から2〜3年経過した、2015年〜2016年頃はどのような変化がありましたか?
山田:2015年〜2016年の創成期+α位の時代になると、データを連携するだけではなく、データに付加価値をつけてユーザーに提供できるようになります。当時は機械学習がある意味ブームとなっていて、『マネーフォワード クラウド会計』でも機械学習のアルゴリズムを使って、連携されたデータに対し、会計仕訳の勘定科目を提案できる機能を追加しました。
冨山:データに付加価値を付けられるようになったのも、SaaSに連携できるデータの種類が増えたことが関係していますよね。入出金明細しか連携できなかったのが、機能改善により内訳明細までSaaSに連携できるようになったり。加えて多くのユーザーに使っていただけるようになったことで、仕訳のパターンなど、機械学習に使えるデータもたまっていきました。リリース時からの改修とデータの蓄積が、さらなる価値提供に繋がっています。
山田:この頃は”Fintech的”な機能であるアカウントアグリゲーションを使って連携したデータを、自動仕訳などのSaaSの機能向上に役立てていました。今振り返るとこの時の取り組みが、SaaSのデータを活用してFintechサービスを提供するという、現在のSaaS×Fintechのサービスに繋がっている気がしています。
②Finance事業立ち上げ期:失敗を重ねて磨き上げたファイナンス領域
ー 2017年には、マネーフォワードケッサイを設立し、ついに、本格的なFintechサービスを開始します。冨山さんはどのような経緯でマネーフォワードケッサイを設立したんですか?
冨山:当時『マネーフォワード クラウド』の営業として多くの中小企業経営者と話す中で、バックオフィス業務だけではなく財務・資金繰りにもユーザーの大きなペインがあると気づいたのが始まりでした。それまでマネーフォワードでは『マネーフォワード クラウド』を提供することでバックオフィスの業務効率化を実現することに注力していましたが、効率化が進んでも企業の財務状況が良くなるわけではありません。ですので、資金繰りの改善も一緒にサポートできないかというのは社内で常に議論にあがっていました。
実はマネーフォワードケッサイ設立の1年前に、マネーフォワードでは『マネーフォワード クラウド資金調達』という融資のサービスを始めていました。申し込みをしたお客さまに対し提携金融機関が、お客さまの『マネーフォワード クラウド会計』上のデータを使って与信審査を行い、融資をするというものです。しかし、なかなかユーザーに満足いただけるサービスにできず、最終的にはサービスを終了する決断をしています。
山田:『マネーフォワード クラウド資金調達』はまさに「Finance×Tech」を実現したサービスで、これがマネーフォワードとして最初の本格的なFintechサービスでした。
冨山:そうですね。マネーフォワードケッサイはそんな『マネーフォワード クラウド資金調達』の失敗をふまえ、融資とは別の手法をとりました。中小企業は資金繰りの中でも、売掛先から代金が回収できないという点で困っている方が多かったので、ファクタリングという手法を使ったサービスを始めました。入金保証型の請求代行サービス『マネーフォワード ケッサイ』と売掛債権を買取する形で早期に資金化する『マネーフォワード アーリーペイメント』の二つのサービスを展開します。
「与信審査モデルにはマネーフォワードユーザーのデータを使っているのですか?」と聞かれることがあるのですが、実際には使っておらず、ゼロからマネーフォワードケッサイで与信審査モデルを構築しています。自分たちだけでユーザーを獲得できるようなサービスレベルでないと、将来的にSaaS×Fintechとしてマネーフォワードのサービスと連携した時に価値を出せないと考えていました。
山田:それぞれが単独で勝てる位の品質にするというのは明確に決めていましたよね。お互いのサービスレベルが0.9だったら、0.9×0.9で0.81にしかならないですから。結果的に、比較的早い時期からSaaSとFintechそれぞれの分野で切磋琢磨しながらサービス品質を向上させてきたことが、後からSaaS×Fintechとして融合する際にも強みとなりました。
(後編につづく)