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マネーフォワードのバックオフィス向けSaaS事業はどのように成長してきたのか?カンパニーCOO竹田×CSO山田対談<後編>

マネーフォワードのバックオフィス向けSaaS事業が、創業時からこれまでにどのような変遷を辿ってきたのか、また、これからどのような方向に向かっていくのか、マネーフォワードビジネスカンパニー(MFBC)COO竹田とCSO山田のインタビューを実施しました。

前編では、2013年のサービス提供開始から2022年までの歩みを、時系列で振り返りました。

後編では、マネーフォワードビジネスカンパニー(MFBC)の組織の強さについて、MFBCコミュニケーションデザイン室の塩原が聞いていきます!


MFBCの組織づくりで意識していたこと

ー組織づくりのイメージは「100人の会社を10社」

塩原:マネーフォワードビジネスカンパニー(MFBC)は、マネーフォワード内のバーチャルカンパニーとして2019年8月に発足しました。このバーチャルカンパニー制とした組織改編は、組織課題解決のための施策でもあったと伺いました。

竹田:そうですね。前編でお話した、フェーズ2からフェーズ3への移行期(2017年後半〜2018年)には、「開発」と「マーケティング」と「セールス」で組織間の分断が発生しており、社内コミュニケーションの点で大きな課題がありました。

※2023/11末時点の最新情報で内容更新しています。

その課題を解決する一つの方法として、それまでの機能別組織ではなく、いわゆる事業部制組織とするために、2019年よりMFBCとしての組織運営をスタートしました。

塩原:MFBCとして組織を作っていくにあたり、意識していたことはありますか?

山田:バーチャルカンパニーとして「1,000人の会社を1社作るのではなくて、カンパニー内に『100人の会社を10社作る』」イメージというのは、常に心がけてました。

塩原:『100人の会社』というのは、カンパニー内の各本部のことですね?

山田:そうですね。1,000人の会社になると、現場の隅々まで役員陣の意図や背景が行き渡らなかったり、スピード感が落ちてくるだろうという懸念があったので、「100人の会社を10社」という形で、いかに組織を作っていくかを考えていました。

2019年のカンパニー発足時から、いくつかの「本部」を置いていて、本部のトップである「本部長」には、1つの会社の代表のように責任と権限を持っていただいています。

カンパニー内には、責任と権限を持ったいくつかの本部が設置されている

ー意識していたのは「ボトムアップとトップダウンのバランス」

塩原:それぞれの本部に大きな決裁権があると、各本部でのスピード感が増す一方、カンパニー内での統一感や整合性が薄れないのでしょうか?

竹田:各本部にある程度は任せながらも、カンパニーとしての整合性の部分は、経営陣が横軸で見るようにしていました。

戦略観点ではCSOの山田さんが、エンジニアリング観点ではVPoE(Vice President of Engineering)の渋谷さんが、人と組織の観点ではCOOの私が見るようにしていて、そういう意味では、各本部の縦のラインと、横のラインがうまく機能していたのかなと思います。

塩原:各本部で、それぞれにミッションも作っていますよね?

山田:そうですね。各本部のメンバーが、事業特性に応じたミッションを策定しています。これもすごく特徴的だと思っていて、順番として、MFBC全体のミッションを所与として各本部のミッションを作っていたわけではないんですね。

そして、2022年の3月にMFBC全体のミッションをアップデートしているのですが、これは、各本部のミッションが出揃ってきたけれど、全体としての統一感も必要なタイミングだという気づきをベースに、改めてMFBCのミッションを策定したものなんです。

こういった、ボトムアップとトップダウンが行ったり来たりするというのも、MFBCの特徴であり、組織が強くなってきた理由の一つだと思います。

竹田:そうですね、フェーズ2の頃は、まだ組織で戦っていくというよりも、個人事業主の集まりといった感じで、カルチャー作りよりも業績を上げることに主眼が置かれていたように感じています。

それが、フェーズ3に入りMFBCを立ち上げるタイミングで、組織としてどう戦うかに焦点を当てるようになり、その「あるべき組織」を考える中では、ボトムアップとトップダウンのバランスについては意識していましたね。

カンパニーを構成する経営メンバーの揃え方

ー内部登用と外部からのジョイン

塩原:各本部へ大きな権限移譲をする前提として、「任せられる本部長がいるか」という課題が出てくると思うのですが、カンパニー発足当初から、マネジメント人材は揃っていたんでしょうか?

山田:正直なところ、初めから人材が揃っていたわけではなくて、私も含めてですが、会社の成長と共に、マネジメント陣も成長してきたということだと思っています。

竹田:初めの頃は、私たちも本部長陣のみなさんも不慣れな部分があったので、戦略策定や目標設定は、山田さんや私もかなり深く入って一緒に議論しながら進めていました。

そうやって、みんなで一緒にフィードバックしながら進めてきて、中期経営計画が2周目になったあたりからは、ある程度慣れてきた部分もあり、かなり任せていますね。

塩原:最近本部長になられた方で、「こんなに任されて、細かく聞かれることがないということにびっくりした。」とおっしゃっていた方もいました。

竹田:いまは、各本部に管掌役員もいますし、私や山田さんが細かく口出しするということはないですね。完全に任せています(笑)

塩原:本部長やカンパニー役員は、内部登用だけでなく、外からいらっしゃった方もいますよね。

山田:そうですね。クラウドERP本部長でカンパニー執行役員の峰島さんは、2020年にスマートキャンプがグループジョインしたタイミングでマネーフォワードにジョインしてくださった方ですし、ほかにも、カンパニー執行役員の中には、2020年以降にご入社いただいた方もいます。

竹田:カンパニー執行役員は、今後の成長のためには不可欠なポジションだと思っており、今後も増やしていく方向性です。

組織規模がさらに大きくなったり、プロダクトの幅も広がってくると、経営の難易度も上がってくるので、スペシャリティーを集結させる必要があるという背景です。

具体的にいうと、今はCSO、CPO、CMO、COO、VPoEが設置されていますが、今後は、本部横断で売上を見ていく役割のCRO(Chief Revenue Officer|売上責任者)や、カスタマーサクセスの部分でCCO(Chief Customer Officer|顧客責任者)、場合によってはカンパニー内にCHRO(Chief Human Resource Officer|人事責任者)、CDO(Chief Design Officer|最高デザイン責任者)、CQO(Chief Quality Officer|品質責任者)といった方がいてもいいのかもしれないと考えています。

塩原:各専門領域を持っている経営チームができそうですし、組織の「縦と横の連携」がさらに進みそうなイメージが湧きました。

現場が学び、共有する文化

ー学ぶモチベーションの源泉は、ユーザーフォーカス

塩原:次に、一番お客様に近い「現場チームにおけるMFBCの強さ」を教えていただきたいです。

山田:一つあるのは、みんな圧倒的に「学ぶ」ことじゃないですかね。

国内外の業界情報や、他社サービス情報、プロジェクトマネジメントなどの仕事の進め方や、チームづくりについてなど、学ぶ幅が広いし、メンバーみんなが日々の習慣としてインプットしている感じはありますね。

塩原:会社から学びを強く推奨しているようにも見えないですが、どうしてみんな自発的に学ぶのでしょうか?

竹田:一言で言うと、「ユーザーフォーカス」の実現というところかもしれないですね。

「ユーザーフォーカス」は、マネーフォワードがバリューに掲げる一つですが、これが形骸化していなくて、社員の多くが本気で「お客様の成功に貢献したい」という強い気持ちを持っていますよね。

そして、「ユーザーフォーカス」を実現するためには、自分たちがスキルを高めて、知恵を絞り出して、価値提供していかないと成し得ないわけです。だからこそ、自発的に学ぶ環境になっているんじゃないですかね。

山田課題に対して、真面目に向き合う人が多いなと思います。そして課題設定も大きくて、社会課題を解決したいと思って入社してくる方も多い。

だからこそ、課題に向き合った結果、解決するには自分達のレベルアップが必要だと自覚して、それを行動に移しているのだと思います。自己成長のためにという理由はあまりなくて、矢印は外向きなんですね。

竹田:飲みの場だったり、雑談をしていても、あまり自分の市場価値がどうとか言う人がいないんですよね。純粋に、世の中に対する価値提供に重きを置いている人が多い。

これは、現場への「学び」に対する啓蒙が必要がないということなので、経営視点だと、究極に効率化された状態とも言えるかもしれません。

ー振り返りとシェアの文化

塩原:みなさん自主的に学ぶし、しかもその内容をシェアする文化が根付いていますよね。

竹田:そうなんですよね。成果を上げた人ほど、まわりに知見をシェアしています。フロー情報としては、Slack上での共有が日々流れてきますし、ストック情報としては、Kibela(情報共有ツール)での発信も本当に多いですよね。

塩原:ためになる学び情報があれば、カンパニー内に一気に拡散されますよね!

Slack上でためになる情報が発信されると、ほかのチャンネルに一気に拡散される

竹田:学んだ人がオープンに発信し、まわりとシェアし、それを見た人がさらに社内に拡散する。そうすることで、様々な立場のメンバーからのフィードバックの量も増え、発信した人の振り返りにもなるし、組織全体での学びの機会になる。そういった学びのサイクルが自然にできているのはすごいと思ってます。

マネーフォワードでの学びのサイクル

社内であっても、発信したら今や1,500人以上の社員や役員にオープンになるわけです。すると、想定外の人の目に触れたり、予想外のマイナスな反応が返ってくる可能性もあり、ちょっとした怖さが伴うと思うんですよね。

でも予想外の反応は、自分のスコープ外なわけで、そこからみんな学びを得ようとしているように見えます。反応がないという反応も含めて、全方位からのフィードバックに対して貪欲な姿勢を持っている方が多い組織なのではないでしょうか。

塩原:知見や気づきをシェアすることも、自分の学びの機会にしてしまうんですね。

いわゆる成果主義が強い会社だと、自分が獲得したノウハウは周りに伝えたくないというケースも多いと思います。その点、マネーフォワードは逆に、どんどん周りにシェアしていって、チームとして強くなろうという発想ですよね。これは「Teamwork」のカルチャーが浸透していることも関係していますか?

山田:もちろんあると思います。ただ「Teamwork」が目的化すると、ただの仲良し組織にもなりかねないですよね。

マネーフォワードでは、ミッションとして「お金を前へ。人生をもっと前へ。」、ビジョンとして「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる。」を掲げていますが、バリュー(Technology Driven、User Focus、Fairness)やカルチャー(Speed、Pride、Teamwork、Respect、Fun)は、ミッション・ビジョン実現のための行動指針であり目指すべき組織文化です。

ですから、Teamworkなどのカルチャーの体現は、あくまでもMV実現のための手段であって、目的ではない。こういった感覚も社員に浸透しているからこそ、組織としてブレずに進めているのではないかと思います。

トップダウンとボトムアップ

ー現場を理解したトップダウンと、戦略ビジョンを理解したボトムアップ

塩原:これまでのお話を聞いていると、マネーフォワードは、いわゆるギラギラ系のスタートアップという感じもしないし、スーパートップダウンで邁進してきた会社でもない。特徴をひとことでまとめると、なんと表現できるでしょうか?

山田:後編のはじめでもお話ししたのですが、「現場を理解したトップダウンと、戦略ビジョンを理解したボトムアップ 」両方の追求を意識する組織なのかもしれません。

竹田:そうですね、ボトムアップの点で言うと、小さなイノベーションは、日々現場のあちこちで発生していて、私たち経営陣が知らないうちに、素晴らしいプロジェクトが進行していることもあります。

ユーザー課題の解像度が一番高い現場のメンバーが「絶対にやるべきだ」という意志を持ってスタートし、しかも他本部も巻き込んで横断で進めることを現場同士で判断し、結果的にものすごい成果を生み出していたという事例もいくつもあります。

塩原:現場では、役職や所属年数に関わらず、一人一人がリーダーシップを持って、アクションしていますよね。

竹田:そのリーダーシップが発揮できるのは、まわりにフォロワーシップを発揮できる人もいるからだと思ってます。あるときはリーダーシップを発揮し、あるときはフォロワーにまわるという柔軟性を持ったメンバーが多いからこそ、ボトムアップでのいい取り組みがどんどん生まれるんでしょうね。

塩原:ボトムアップの動きがワークするのは、どうしてだと思いますか?

山田:「戦略ビジョンを理解したボトムアップ 」という表現をしたのですが、戦略ビジョンの共有を大事にしていることが大きいと思います。

カンパニーの役員や本部長陣がオンライン配信で戦略の背景や経緯を語る「MFBC Park Session」の実施も、戦略ビジョンやその背景にある思いの共有を重視した企画ですし、1on1や目標設定の仕組みも、現場の自走を促す仕組みになっていると思います。

(「MFBC Park Session」については、こちらの記事もご覧ください!)

塩原:各部門や個人の目標設定は、OKRのエッセンスを取り入れた考え方での運用になっていますね。

山田:そうですね、現場でのOKRの目標は、全社およびカンパニーの戦略に紐づけて設定する仕組みになっているので、ある意味、目標に対する縛りは強い方だと思います。

逆に手段に対しての自由度が高く、かなり権限移譲がされているので、現場では自由な発想で自発的に動いてくださっている感じですね。一方で、トップダウンで決めた施策に対しても、粛々とやり切る力がある組織だと思います。

塩原:それができるのは「現場を理解したトップダウン」だからですよね。たしかに、カンパニー経営陣も各本部長も、現場の解像度がものすごく高いと感じます。

山田:おそらくですが、その背景にあるのは「圧倒的なユーザーフォーカス文化」で、ユーザーの解像度を上げるという行動は、現場も役職者も関係なく正義として実行するんですよね。

なので、マネジメントメンバーは、現場の解像度を上げるためのコミュニケーションや情報取得を当たり前のこととしてやっているのだと思います。

竹田ボトムアップとトップダウンの大きなプロジェクトが、両方とも走り切れる組織というのは、MFBCの特徴なのかもしれないですね。

これからの組織づくり

ー「フェーズ4」に向けて

塩原:MFBC所属の従業員数は、『100人の会社を10社作る』結果としての1,000人に近づくところにきていると思いますが、今後はどういった組織になっていくのでしょうか?

山田:基本的なコンセプトや方向性は変えない方針です。ただ、これからさらに組織を拡大していくにあたって、組織構成の考え方は多少チューニングが必要かなと思っています。

本部の数を今以上に増やして、所属社員数100人の維持を大事にするより、所属員数が200人、300人になっても耐えられる組織づくりがこれからの課題です。

今後推し進めていきたい「SaaS×Fintech」の実現に向けては、「Embedded Finance」と言われるように、SaaSサービスにFinance機能をEmbeddedというのが本質的です。

となると、いまのSaaS事業部の中に、Finance機能も見られるような機能を包含していくというのを、現時点での考えとして持っています。

竹田:そういう意味では、今まさにフェーズの転換点にきている感触を持っていて、2022年からはフェーズ4という意識で臨んでいます。

「マネーフォワード クラウド」はリリース当初からマルチプロダクト戦略をとっておりマネジメントが難しい事業なのですが、今後はさらに戦略の複雑さが増し、比較的大きな多機能の組織が成長インパクトを作っていかなければいけない局面です。

これから先は、さらにレベルの高いポートフォリオ経営を実現する必要があるので、経営の難易度はますます高まり、求められるレベルは非常に高いですが、これまでに築いた組織力をベースに、志を同じくした仲間と、さらなる高みを目指していきたいですね。


編集後記


前編・後編の2本でお届けしてきた、ビジネスカンパニーCOOの竹田とCSOの山田のロング対談、いかがでしたでしょうか?

マネーフォワードのバックオフィスSaaS事業は、数字だけを見ると非常に順調な成長曲線を描いてきたように見えますが、その時々でさまざまな課題に対峙し、ひとつひとつ乗り越えてきた事業だということがわかりました。

そして、更なる成長に向けて、まだまだ多くの課題があります。

マネーフォワードビジネスカンパニーでは、これからの成長を一緒に牽引していただける仲間を募集しています!


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