確定申告と家計簿のスマホアプリが繋がって電子申告も出来るようになった話
マネーフォワード クラウドのモノづくりの精神を、CSOの山田一也がその中心人物たちとの対談で解き明かしていく。
「CRAFT WORKS」マガジン、記念すべき第一回目の対談は、2021年2月にフル機能をリリースした確定申告アプリの開発チームと、その思いや裏側について赤裸々に語ってもらいました。
右:山田 一也(やまだ かずや)
株式会社マネーフォワード 執行役員
Money Forward Business Company CSO
中:穐山 範絵(あきやま のりえ)
株式会社マネーフォワード
Money Forward Business Company
経理財務プロダクト本部 プロダクト戦略部
左:佐藤 慎悟(さとう しんご)
株式会社マネーフォワード
Money Forward Business Company
経理財務プロダクト本部 プロダクト戦略部 副部長
個人開発部 Mobileグループ
プロジェクトのはじまり
山田:「マネーフォワード ME」というお金の課題を解決するtoC向けの事業をやっている我々が、ユーザーにさらなる付加価値を届けていくうえで、「マネーフォワード クラウド確定申告」との連携強化はチャレンジしたい領域だよね、という話からプロジェクトがスタートしたのを覚えてます。
それをきっかけに、2つの大きな方針として、スマホアプリをもっと高機能にするっていう話と、 「マネーフォワード ME」の機能やユーザーベースをしっかり活用していこう、ということが話されて。
ただ、あまりにも今までの路線と違う部分もあったし、「マネーフォワード クラウド」と 「マネーフォワード ME」との連携ってここまで本格的にやったことなかったから、相当ハードで難しいプロジェクトになるよな・・というのは役員の間でも話をしてました。
そこから、どういう体制でいくのか?の検討が始まり、スマホアプリの開発をしていた佐藤さんだったり、「マネーフォワード クラウド確定申告」の企画をしていた穐山さんが適任なんじゃないか、という話になって、去年の春ごろにお二人に依頼させていただきました。
どうでした?その企画の話を聞いた時。
穐山:去年は、スマホアプリに仕訳を作る機能をリリースしたばっかりで、それも大きなステップだったと思っていて。
とは言え、そもそもの確定申告機能については、私もサービスを使ってみて課題を感じるところがたくさんあって、「もっと楽になったらいいな!」と思っていたので、「どう?」って言われたときは「あ、やりたい!」と。
ただそのときのイメージからは想像もできないくらい、こんなに壮大なプロジェクトになるとは思っていなくて...(笑
私自身、プロジェクト全体を企画統括するのが初めてだったので、それが大きいのか小さいのかっていう物差しも持っていなかった感じでした。
カスタマーサポート時代から温めていた想い
山田:穐山さんって、カスタマーサポートから開発に異動してどれくらい経ちました?
穐山:ちょうど2年ですね。
山田:じゃあ確定申告を2回乗り越えたってことになるんですね。
カスタマーサポート時代からユーザーからの確定申告に対する要望っていっぱいあったと思うんですけど、どんな感じでした?
穐山:そもそも制度が分かりづらいというのがあるので、制度自体についての問い合わせも多いのですが、とは言えサービス側で「ここが自動になってれば迷わないのにな」というのもあって、ここもうちょっとなんとかならないかなーと思いながら対応してました。
山田:そうですよね。スマホアプリだけじゃなく、Webで利用される方もいる中で、Webでの自動計算のところはまだまだ十分じゃないところも多かったので、そのあたりの課題感ですよね?
穐山:そうですね。
山田:佐藤さんはどうでした?この話聞いたとき。
佐藤:去年の2月にマネーフォワードに入社したので、僕が聞いたのはちょうどその1ヶ月後くらいのタイミングで(笑
仕訳登録機能のリリース後から、その磨き込みをやっていたのですが、それ自体には当然価値はあるんだけどそれ以上にこれから「どうやって事業的にインパクトを出していくか」という所をちょうど考えていたところでした。
そんな中で、5月か6月くらいに、山田さんから戦略や組織体制の変更についての発表があって、スマホアプリのチームとWebのチームがマージされ、ひとつのチームになりました。
実際にWebの機能に携わらせてもらう中で、確定申告のスマホアプリに機能を集約させていくことが 「マネーフォワード ME」との連携の肝になるのではと思っていたので、既存のアプリに機能を搭載するという方向性はすごくイメージ出来ました。
正直僕も入ってすぐの時だったので、アプリチームもチームとしてまだ未成熟な状態で、メンバーもどういうところを目指してやっていこうとかみんな迷いながらやっていたので、一本指標ができた感じでした。
課題を解決すると次の課題が見つかる日々
山田:そこからいよいよ開発に入っていく、という流れだったと思うんですけど、大きく2つのチャレンジがあって、1つは 「マネーフォワード ME」との連携で、もう1つがスマホアプリで電子申告できるという機能の提供でした。
「マネーフォワード ME」との連携は、最初、どう連携させるかの具体的なイメージがない状態でスタートして、ゼロから企画を詰めていったと思うんですけど、進める中で考えていたこととか、難しかった部分とか、逆に、すごく良くなる予感がしてた部分ってどんなところでしたか?
穐山:最初に「マネーフォワード ME」と連携するって聞いて、「それほしかった!」って思ったんですよね。企画段階からすごくワクワクしてました。
私自身、子供がいるので、人数分の医療費を家計簿に記録していて、それを毎年エクセルにおとすのもまあまあめんどくさいし、せっかく家計簿つけているのにな、、と思っていたから、まずそれが連携できるだけでもすごい価値があるし、実現できたらたくさん喜ぶ人がいるはず!と思っていました。
でも、いざそれって実際どうやるんだ?ってなった時に、もうわからないことだらけで(笑
山田:すごい大変だったよね。
穐山:そうですそうです!でも、絶対便利にしたいという思いでひとつひとつ課題に取り組んで行きました。でも、ひとつ課題を解決するとまた新しい課題が見えてくる。。なんかこう、出口が見えないっていうか...そんな時もありましたね。
佐藤:ちょうど6月とか7月とかって「うー」って唸ってましたよね(笑
穐山:そうそう。ここ!っていうゴールは見えているんだけど、どの道を行けば良いのかわからないという感じでしたね。
山田:企画を詰めていく中でユーザーインタビューとかも取り入れられていたと思うんですけど、どんな形で進められたんですか?
穐山:ユーザーインタビューについては、主に「マネーフォワード ME」のエンジニアとデザイナーの方にやっていただきました。
私にとっては有ると嬉しい機能だけど、本当に嬉しい人ってどれくらいいるのか、「それ待ってた!」っていう人がどれくらいいるのか、というのが1番知りたいところでした。
山田:実際にリリースしたあと、「マネーフォワード ME」との連携を使われている方がTwitterで発信してくださっていて、「不安になるぐらい簡単に終わってしまった」みたいなことも書いてくれてましたよね。
どうですか?こういう感想を聞いて。
穐山:ちっちゃいガッツポーズ
全員:ちっちゃいんだ(笑
穐山:おっきく言いたいけどちょっと控えめに(笑
電子申告機能リリースへの挑戦
山田:事業所得がある方向けの機能を実装するところからスタートして、途中から医療費控除や還付がある方向けの申告機能も追加しながらリリースしたわけですが、当初の計画よりもリリース時のスコープが広がっていくことをどう思われてましたか?
穐山:「マネーフォワード クラウド確定申告」が個人事業主向けであることが前提で、そのユーザーは「マネーフォワード ME」で家計簿をつけている「個人」でもあり、このスマホアプリでそこをどう繋いでいくのか、というのを考えていました。
国税庁から出ている指標では、半数くらいが還付のための申告なんですよね。toC向けである「マネーフォワード ME」のサービスの特徴から考えるとそういったニーズが多いはずで、家計簿の医療費をはじめとしたデータを活かせる機能はあった方が良いと思っていたし、実際にユーザーインタビューでも希望される声が多くありました。
山田:今回の機能拡張によって、これまで事業所得だけを対象としていたところから一気に裾野が広がって、実際に今年のユーザー登録数は大幅に伸びていますし、多くの人に使ってもらえるようになったのはよかったですよね。
山田:電子申告機能の話をしていきたいと思うんですけど、開発中もコロナが収まらず、税務署に行って申告するのは特に高齢者の方を中心にまだリスクが高い状況があって、いかに自宅で確定申告を完結できるかというのは、すごく社会的に意義のあるテーマだったんじゃないかなって思っていて。
そういう意味で、スマホアプリの電子申告機能のリリースはとても重要な取り組みだったと思うのですが、チャレンジしてみようよ!となった時、どんなことを考えましたか?
佐藤:そうですね。正直不安はありました。他社に先駆けて取り組んでいる、という状況だったので・・・。
スマホでマイナンバーカードを読み取って申告をするという体験が、世の中の人に対してどれくらいの価値を提供できるのか、その時点では見えない部分が多くあったので、どう実現していくかを考えていました。
ただ、ユーザーインタビューとか知り合いとか友達とか、あらゆるツテを使って話を聞いていると、例えばパソコンで確定申告をする人って、年一回しかやらない確定申告の作業のためだけにカードリーダーを数千円で買って、、という無駄があったりするので、解消できるユーザーペインは大きいという実感はありました。
それをスマホで実現できることや、コロナ禍という世の中的なところも後押しとなったので、タイミング的には良かったのかなと思ってますね。
実際にそれを実現するにあたっては、CTOの中出さんやMoney Forward Vietnamの都築さんに連携させていただいて、なんとか漕ぎ着けたというところではあります。カードの読み取りに関しては福岡の河島さんにも手伝っていただきました。
あと、僕らのアプリ自体にもまだまだ磨き込む余地はあると思いますが、一方で、ユーザーにとってわかりにくいところはまだあると思っていて、それが何かっていうと、僕らのプロダクト外のところの、細かい話をすると利用者識別番号とマイナンバーカードの紐付けのところとか。
全員)そうなんだよねー。。
佐藤:わかんないと思うんですよ。e-Taxとかマイナポータルとか、いろんなところで似たような説明はされているけど、結局どれが正解なのかわからない、というのがあったりして。
最終的には、そこを見なくても僕らのプロダクトを使うだけで全てワンストップでできる、というのが理想で、まだそこは考えなきゃいけないことがたくさんあるなと思いますね。
山田:最近、国税庁も本気で変わろうとしてくれているので、もしかしたら将来的に紐付けとかもAPI経由でできるようになったりとかね。
そういう未来が来たときのために、我々として国に要望したいことを挙げていくことがすごい大事ですよね。
佐藤:今回、国税庁とも結構頻繁にやりとりしたので、ちゃんとそういうパイプを作っていくことも大事だな、と思い始めてます。
山田:民間だけではできないことって多いですからね。三位一体となって、確定申告される方をサポートしていくっていうのは大事なことですよね。
・・・それにしてもすごい大変なプロジェクトでしたよね。これ書けるかわからないけど、CTO含めそうそうたるメンバーに技術検証させるっていう(笑
佐藤:しかも今回って、電子申告とか他の機能もやってましたけど、同時にアプリ課金の実装とかも動いていたり、けっこう一個一個重いのが同時進行していたので、なかなかタフなプロジェクトだったなと思いますね。
山田:そうですよね。5月とか6月ごろってまだ検証が終わっていなかったから、構想はあったけどこれ本当にアプリから電子申告できるのかっていう...。
CTOの中出さんに聞いても、「うーん、、6割くらいは行けそうな気がする」って言ってて(笑
これ、行けなかったら全然戦略変わっちゃうから「なんとしてでもやり切ってください!」ってすごいプレッシャーをかけてました。
佐藤:実際にそれがちゃんと形になってますもんねー。今回の電子申告機能の初動は、中出さんに力を貸していただきました。
山田:このプロジェクトって、機能ごとに別のチームから引き継いだりするパターンも多かったんじゃないかなと思うですけど、チームビルディングとかメンバーのモチベーションコントロールとか、その辺りっていかがでしたか?
佐藤:今回はPC版とスマホアプリ版でチームは分かれてはいたんですけど、やっぱ不確実要素が高いものをやっていくということで、最初はやっぱりネガティブな声も多少ありました。「本当にできるのか」とか、「期間短すぎない?」とか。
そういう意味では、最終的にちゃんと着地して世の中に出せたという結果が、各メンバーの中にやりきるという強い意識を芽生えさせるきっかけになったのではないかなと思っています。
一方で、今回はステークホルダーが多い機能だったので、各領域のエンジニアもそうですし、企画、デザイナーと色々といろんな職種が関わる中で、なかなか認識を合わせにくいっていうか、コミュニケーションが難しいというのが正直あったので、そこはまだ課題として残っているのかなって思ってます。
最終的にはちゃんとゴールに向かって動けるようになっていったんですが、そこら辺はやっぱり各メンバーの努力もありますし、確定申告全体を見る穐山さんのコミットが素晴らしかったのかなと思っていて。
穐山:褒められた...!
山田:穐山さんのその確定申告に対するコミットはどこから湧き出るものなんですか?
穐山:もう赤ちゃんと一緒ですよ(笑
もっと便利になるはずのこの子に、電子申告だったり、「マネーフォワード ME」連携といった機能を与えたいと思ってやってきて、それが実現できた、と。
だからこそ、ぜひ使って欲しいし、この価値を届けたい!っていう。それだけですね。
ユーザーからの期待とリリース後の声
山田:今まさに確定申告の真っ只中ですが、事前の予想をはるかに超えるスピードで増えていく「マネーフォワード ME」との連携数を眺めていてどんな気持ちですか?
穐山:いやもうドキドキしますよね。。
山田:やっぱり期待値高かったんですね。
穐山:昨年11月のプレスリリースの時点で、まだ機能をリリースする前なのにポジティブな反応が多かったっていうのもあって、すごい期待されてる!という嬉しい気持ちになる反面、ドキドキするみたいな...。
山田:僕も、本番リリースされてから、個人の経費のデータを連携したんですけど、あれ感動しました。入ってる!って。
勘定科目も自分のイメージ通りに入ってて、家計簿をちゃんとつけてさえいれば確定申告に必要な経費のデータが揃う!って本当に感動しました。
穐山:きゃー嬉しい!
佐藤:「マネーフォワード ME」連携のところは、SNS含めポジティブな声も多いですし、実際自分の周りの「マネーフォワード ME」を使ってる人からも「これはやばいね」っていう声もたくさんいただいていたので、リリースしてからの実感はほんと凄かったですし、実現できたのは「マネーフォワード ME」チームの協力あってこそでした。
穐山:本当に一丸となってやり切った感じでしたね。
マネーフォワード クラウド確定申告の未来
山田:最後に。今期、まだ確定申告は続いていますけど、来年の確定申告に向けて今後どうやってサービスをグロースさせていきたいとか、こういう機能を追加していきたいといった夢を語っていただけたらなと思うんですけど、穐山さんいかがですか?
穐山:夢がいっぱいありすぎて時間が足りないです(笑
時期はお約束できないんですが、確定申告書の三表・四表の作成機能はやりたいですね。コロナ下で収入に不安があって、投資などの違う柱から収入を得たいという人が増えているからこそ、ニーズはこれまでよりも増えていくのかなと思っているので対応したいと思っています。
あとは、還付申告のユーザー向けに、今よりさらに確定申告を簡単にできるんじゃないか?というあたりについて考えています。
山田:確定申告書の三表・四表は是非欲しいですね!
私も今年色々あって、三表使って申告しなきゃいけなかったっていう、、ちょっと残念なパターンのユーザーなんですけど(笑
今後、三表・四表をやっていきたいっという話を伺っていたので、どういうペインがあるのかの調査も兼ねて実際にe-Taxでやってみたんですよ。あれ大変ね。。まずどこに何入れたらいいかわからない。。
佐藤さんはどうですか?
佐藤:ちょっと抽象度の高い言い方をすると、「確定申告にかける時間をどれだけ削って本業に集中できるか」にこだわりたいなと思っています。
三表・四表の話もそうですし、国のマイナポータルの機能のアップデートによって、ユーザーの入力含めいろんな手間が省けるようになっていくと思うんですよね。
最終的には、夏休みの宿題じゃないですけど、ギリギリまでやらないって言うよりかは、「すぐ終わったね。じゃぁ確定申告にかける時間をその分本業に割こう!」みたいなことを実現して、最終的にはユーザーの生活をより良くするところを目指してます。
あとは、「マネーフォワード ME」連携のところですね。
我々のアセットをどう活かすか?という点で、「マネーフォワード ME」を使っていることによって確定申告時に得られるメリットをどんどん増やしていけると、より価値が出せると思っています。
山田:いやー楽しみですね。
山田:穐山さんにとって確定申告とは?
穐山:できるなら、勝手に終わっていてほしいものです。いつの間にか終わってて、確認だけして提出するだけで終わる。
山田:そうですね。我々がユーザーの代わりにそこを負担していきたいですよね。では最後に、佐藤さんからユーザーの皆様に一言いただけますか?
佐藤:確定申告をネガティブなものではなく、ポジティブなものにしていきたいと思っています。
まだまだこれから細かい改善を続けて行きますし、プロダクト自体も変化して行きますが、最終的には、ユーザーの生活により深く貢献できるようなサービスにしたいなって思います。