見出し画像

マネーフォワードのバックオフィス向けSaaS事業はどのように成長してきたのか?カンパニーCOO竹田×CSO山田対談<前編>

マネーフォワードは、2022年5月18日に、創業10周年を迎えました。

創業以来、ユーザー、取引先、株主をはじめとするみなさまに支えていただき、心より感謝申し上げます。

今回は、マネーフォワードのバックオフィス向けSaaS事業が、創業時からこれまでにどのような変遷を辿ってきたのか、また、これからどのような方向に向かうのか、マネーフォワードビジネスカンパニー(MFBC)COO竹田とCSO山田のインタビューを実施しました。

本noteでは、前編として、2013年のサービス提供開始から、2022年までの歩みを、対談形式で振り返ります。


2022年までは3つのフェーズに分けられる

竹田:2014年にマネーフォワードに入社された山田さんから見て、2013年11月のサービス提供開始から現在のバックオフィス向けSaaS事業に至るまで、転換点はどこだったと思いますか?

山田:そうですね、2度あったと思っていて、1度目が2016年です。

2013-2015年は、中小企業や個人事業主をターゲットにしたサービスラインナップで、販売チャネルとしても士業(税理士事務所など)経由かWeb経由の二択という状況でした。

それが、2016年の「マネーフォワード クラウド経費(当時MFクラウド経費)」の提供開始をきっかけに、中堅企業への販売を視野に直販セールス体制の構築にも着手し、一部で製販一体組織を志向し始めました。

2度目が2018年。経費領域で、ある程度直販セールス体制の結果が出たのを踏まえ、今度はHR領域でも直販部隊を立ち上げた頃です。

いわゆるSaaSビジネスとして軌道に乗せることができ、組織としても「マネーフォワードビジネスカンパニー(MFBC)」というバーチャルカンパニーとして始動すべく検討を始めました。

竹田:そうすると、2013-2015年の第1フェーズ、2016-2017年の第2フェーズ、2018-2022年の第3フェーズ、この3つのフェーズに分けられそうですね。

※2023/11末時点の最新情報で内容更新しています。

竹田:私自身は、2017年11月に株式会社クラビスがグループジョインするタイミングでマネーフォワードに参画しているので、ちょうど第3フェーズが始まるくらいから山田さんや他の皆さんとともに、バックオフィス向けSaaS事業を歩んできたことになりますね。

フェーズ1:SaaS前夜期

ー機能がなくとも、クラウドの夢を信じて購入いただいていた初期

竹田:山田さんが入社した2014年当時は、プロダクトとしてはどんな状況でしたか?

山田:いわゆる「会計ソフト」「確定申告ソフト」は2013年11月から展開していて、2014年5月には「MFクラウド請求書」サービスが提供開始されていました。

竹田:山田さんはもともと、マネーフォワードの会計ソフトのユーザーだったんですよね。

山田:そうですね、当時フリーランスとしてベンチャー企業のバックオフィスの立ち上げをサポートする仕事をしていて、マネーフォワードの「会計ソフト」「確定申告ソフト」「MFクラウド請求書」を利用していました。

当時のプロダクトは使い勝手が悪く、インストール型のソフトと比較して機能も不足していました。

ただ、当時20社ぐらいのクライアントを並行して担当していたんですが、直接お会いしてデータの受け渡しをせずとも作業ができたり、そもそもインストールなしで使えたりする点で、クラウド会計に対する未来を感じていましたし、もったいないと思っていたんです。

竹田:当時の販売チャネルとしては、士業(税理士事務所など)経由がメインですよね?

山田:はい、私も入社直後は、士業向けのセールスを担当していました。当時、いわゆるSaaS的な売り方、つまりサブスクリプション的な考え方は全くなく、士業事務所に一括でライセンスをご購入いただき、そのライセンスを顧問先の企業様に再販していただくスキームがメインでした。

竹田:そのやり方は、はじめからスムーズに拡大できましたか?

山田:いえ、そんなことはなかったです(笑)

そもそも機能としては不足していたので、士業のみなさんには「将来的にすごくいいプロダクトになります」と言って、クラウドの夢を信じてライセンスをご購入いただいていたんですね。

ただ、その先のクライアント(顧問)様向けの販売が苦戦してまして、結局士業事務所にライセンスの在庫を抱えていただくという事態になっていました。

やはり機能が足りなすぎるということで、私は開発側にコミットして、プロダクトマネジメントに関わり始めました。(まだ2014年内の話です)

竹田:それで、機能追加したら売れ始めたんですか?

山田:いや、そうでもなくて。。。機能もすぐには充実させられなかったですし、まだまだプロダクトが良くなったと言える状況ではありませんでした。

ただ、徐々に買っていただけるようになったのは、この時期(2015年に差し掛かるあたり)です。

竹田:というと?

山田:セールスのみんなが、クラウドとしての夢をさらに熱く語れるようになってきたんですよね。

当社がミッションとして掲げている「お金を前へ。人生をもっと前へ。」の言葉自体は創業当時からあり、のちにビジョンとなる「お金のプラットフォームになる。」という言葉もあったので、そういった思いを、士業の方々が受け止めてくださって、それで売れ始めた感覚があります。

竹田:なるほど。いま、SaaSの普及とともに、PLG(Product-Led Growth/プロダクトレッドグロース)の考え方が提唱されていたりしますが、マネーフォワードは全くPLGではないアプローチをしてきたんですね。

山田:そうですね、社長の辻さんを筆頭に、まずは夢やビジョンを社会に向けて語って、後からプロダクトが追いついてきたというのが、マネーフォワードの成長の過程だったと思います。

プロダクトの機能が足りていない状況でも、マネーフォワードのビジョンに共感くださった士業事務所にライセンスを購入いただいていたので、期待値は非常に高かったですし、プロダクトへのフィードバックをたくさんいただけました

そのフィードバックによって、追加開発のポイントが分かりましたし、いい意味でお客さまからのプレッシャーを受け続けることができたのは、その後の成長にも繋がっていると思います。

ー会計領域の機能が十分でないうちに、HR領域にも拡大

竹田:2015年を迎えても、会計・確定申告・請求書は、機能としては不足していたと思うのですが、一方で、給与やマイナンバーといったHR領域にプロダクトを拡大していきますよね。これは、どういった判断があったんですか?

山田:当時、士業チャネルにしても、Webチャネルにしても、ユーザー企業は10名程度の小規模事業者が多かったんですね。経理も労務もバックオフィスは全て社長が担当している企業がほとんどでした。

そうすると、会計領域だけでなく労務もなんとかしてほしいという声をお聞きすることが増え、「HR領域もマネーフォワードとしてやるべきだ」という判断になりました。

とはいえ、まだ事業を立ち上げて1年ちょっとのタイミングですし、「はじめは会計領域に注力すべきなのでは?」という意見が大きかったのも事実です。

結論としては、給与プロダクトの開発は、最小の人数(結果3名)で立ち上げるということになりました。そのうちの一人が私です。

竹田:しかも、HR領域で、給与のプロダクトだけでなく、マイナンバーのプロダクトも2015年に立ち上げていますよね。

山田:そうですね、2015年9月に改正マイナンバー法が成立するから開発しようとなったのですが、当然人がいないわけです。

なので、給与のプロダクト開発を1、2ヶ月だけ止めて突貫で作ったのが、「MFクラウド マイナンバー」でした。

「MFクラウド マイナンバー」は量販店で売ることを想定していたんですね。量販店で売るためには、ライセンスの仕組みが必要なんですが、プロダクトリリースした時点ではその機能実装が間に合わず。それで、先にコードだけ発番しておいて、量販店に出荷中の2〜3週間の間に、コードを適用したら使える機能を実装している状態でした。

竹田:今となっては思い出話ですが、非常に綱渡りな感じですね(笑)組織としてはどのような状況だったんですか?

山田:この頃は、マネーフォワード全体で社員数が100名弱で、組織としては事業推進(士業向けセールス)、マーケティング(Webチャネル)、サービス開発の3つに分かれていました。いわゆる機能別(職能別)組織ですね。

私自身は、サービス開発で会計と給与(ときにマイナンバー)の開発に関わっている傍ら、事業推進の中で、今で言うカスタマーサクセス的な役割も担っていて、午前中はプロダクトの開発を見て、午後にサクセス担当として「プロフェッショナル養成講座」というユーザー向け講座の教材を作り、講座の講師として登壇するといったこともやっていましたね。まさに何でも屋です(笑)

フェーズ2:SaaS誕生期

ーTHE MODEL的組織への挑戦

竹田:2016年からのフェーズ2は「SaaS誕生期」ということですが、どういった背景ですか?

山田:SaaSは海外で生まれたビジネスですが、2016年になると、日本でも徐々にSaaSという言葉を見かけることが増えたんですね。そして、いわゆる、THE MODEL的な概念も出始めました。

当時、経費プロダクトの責任者をやっていただいていた今井さん(現マネーフォワード i 代表取締役社長)が、自称SaaSオタクというくらい海外の事情にもすごく詳しくて、プロダクトはもちろん、SaaSとしてのビジネスに対する向き合い方や考え方、そういうものをどんどん社内に共有してくれました。

そういった情報が社内で流通し始めて、経費プロダクトの立ち上げもそうですし、HR領域の直販チームを製販一体で立ち上げようとなった時に、THE MODEL的な考え方にチャレンジしたのが、この時期ですね。

竹田:めちゃくちゃ情報が早いですよね。

2016年のタイミングで、SaaSという言葉がすでに社内にあって、しかも、THE MODELの前段みたいなものを構築しにいってるのはすごいですね。

その後みんなが読んだ「THE MODEL」の本が出たのは2019年初めですし、SaaSというビジネスが一般化してきたのもその辺りだと思うので、2年くらい早いですね。

100人ちょっとくらいのスタートアップで、先行して感度高く情報を取得していて、それを具現化できる人材もいたっていうのが、大きいなと思います。

山田:そうですね。さっきご紹介した今井さんもですけれども、このタイミングでタレントは結構揃っていたと思います。

ー優秀なタレントは、どう集まってきたのか?

竹田:そういう人たちをどうして集められたんですか?

山田:そこは、社長の辻さんの存在が大きかったと思っていて、辻さんがビジョンを語ることで、いろんな強みを持つ人が引き寄せられて入社し、それによって成長した会社だと思います。

当時は辻さんが、お客さんに会う、採用候補者に会うっていうのを、とにかくやっていましたね。

竹田:山田さんも、ユーザーとして辻さんに会った席でスカウトされてますもんね。

山田:そうでした(笑)

マネーフォワードのミッションは「すべての人のお金のプラットフォームになる。」という、すごく風呂敷を広げた内容じゃないですか。それに対して、自分のビジョンや夢を重ねる人が多かったんだと思います。

竹田:お客様に向けて夢を語ると同時に、採用候補者の方々に向けても、マネーフォワードとしての夢を語ることで、優秀な人材が集まってきたんですね。

ー成長曲線に乗せられたのは、とにかく目の前の課題に向き合い続けたから

竹田:マネーフォワードって、ここまで順調に成長してますよね。同じ2012年に立ち上がったスタートアップはいくつもあったはずですが、創業3年を越えて成長曲線を描き、上場も実現できそうだとなる会社は数えるほどしかありません。マネーフォワードは何が違ったんでしょうか?

山田:とにかく目の前の課題に向き合い続けたということに尽きるんじゃないかと思います。

今振り返ると、当時は戦略も甘かったですし、逆算して物事を考えることはできていなかったと思うんですね。もし、私たちのビジネスが1億ドンと投資して、あとは伸るか反るかというモデルだったら、うまくいっていなかったはずです。

一方で、SaaSは出した後に改善し続けられます。サービスを出した後には当然課題にぶち当たるんですが、それをみんなで乗り越えることにコミットし続けた。つまり、SaaSというビジネスモデルと、マネーフォワードのカルチャーが、すごく相性が良かったのだと思います。

竹田:これをやりたいという思い先行で、まずはとにかく早く出す。出した上で、それをお客さまの期待に応えるように、後から改善し続ける。その歩みを止めないで、サービスラインナップを拡げ続けてきたんですね。

山田:そういうやり方をしていると、当然組織と人も傷だらけになってきます(笑)プロダクトも、スピード重視で完璧な状態ではリリースしていないので、お客様にご迷惑をかけたことも、叱責いだいたことも何度もあります。

ただ、やっぱりそこのスピード感というか、改善していくっていうことに対するマインドっていうのは、すごく大事にしていました。

あとは、失敗に対して許容する文化があったので、新しいことに対するチャレンジは、みんなフットワーク軽くやってましたね。そういう点もプラスに働いたのかもしれません。

ーフェーズ2の後半(2017年)には組織課題に向き合うことに

竹田:2017年9月にマザーズ市場へ上場し、その後の2017年の11月に私もクラビスとともにジョインしたのですが、外からマネーフォワードを見ていると、タレントは揃っているし、資金も豊富だし、組織としては完璧だろうなと思っていたんです。

ところが中に入ってみると、思ったより人材もいるけれど、いろいろな面で複雑だなというのをまず感じましたね。 

山田:そうですね、プロダクトドメインとしては経理財務領域とHR領域、チャネルとしてはテックタッチ(Web経由)と士業チャネルと直販も。さらに組織は、直販部隊は製販一体だけど、それ以外は機能別(職能別)でした。
そして、このタイミングでの一番の課題は、社内のコミュニケーションでした。

竹田:そうですよね、コミュニケーションコストが高い状態でした。実際、退職者も多い時期でしたよね。

フェーズ3:SaaS成長期

ー開発とマーケティングとセールスでの組織間の分断が発生

竹田:そして、フェーズ3に入って行くわけですが、2017年に引き続き、2018年のはじめは、本当に課題が山積している状況でした。

山田:そうなんです、なので2018年は「会社設立」や「ストア」のプロダクトはリリースしているんですが、いわゆるバックオフィスSaaSのプロダクトは出せていないんです。

竹田:2017、2018年あたりというのは、プロダクト拡充の点では一旦トーンダウンしつつ、様々な課題に向き合った時期ですよね。

特に、直販部隊以外は、機能別(職能別)組織だったので、開発とマーケティングとセールスでの組織間の分断が表面化していましたね。

山田:そうですね。組織間の分断については、それぞれ別の役員が管掌していたのがよくなかったと思います。いま振り返ると、やっぱり経営はチームでやらないとダメだなと強く思いますね。

実際、当時、開発サイドを見ていた私と、ビジネスサイドを見ていた竹田さんは、ほとんど直接のコミュニケーションを取ったことがなかったですよね。

経営側のファンクション間の壁が、そのまま現場における組織間の壁にも反映されてしまっていたと感じます。

竹田:私はビジネスサイドを見ていて、営業側ではKPIを変えたりだとか、ナレッジシェアを進めるだとか、今でいうBizOps的な取り組みによって、2018年の一年である程度成果が出てきていました。

ただ、更なる価値向上やスケールを考えた時に、やっぱりビジネスサイドだけでなく、開発サイドと一体となって進んでいかないと難しいと思ったんですよね。

それで、「山田さん、ちょっと1on1の時間いいですか?」みたいな感じで話を始めて、「今更だけど、一緒にやった方が良いですね」という話をしまして。

ーそしてMFBC発足

竹田:そんな会話がきっかけで、マネーフォワードビジネスカンパニー(MFBC)を作ろうと動き始めましたよね。

山田:バーチャルカンパニーとして、MFBCが発足したのが、2019年の8月です。

竹田:それまでは、開発部門が辻さん、CS(カスタマーサポート)部門が瀧さん、ビジネスは私という感じで、管掌役員がそもそも分かれてたんです。

その体制により発生していた課題解決のため、事業ごとのバーチャルカンパニーとして、「ビジネスカンパニー(MFBC)」「HOMEカンパニー」「Xカンパニー」が誕生しました。

MFBC発足時から、カンパニーCOOが私、カンパニーCSOが山田さんという体制でしたが、私にとっては、MFBCという組織になったことはとても大きかったと感じます。

というのも、これまでは自分が担当する組織にエンジニアの方は一人もいなかったのですが、MFBCになってからは、エンジニアの方もデザイナーの方も同じ傘の中に入ったわけです。

発足時には、全エンジニアの方とランチをさせてもらって、コミュニケーションの場を持ちましたが、同じカンパニーの仲間としてどうしていこうかを考え始めて、一気にできることもひろがったし、より大きな課題に向き合える一体の組織になりました。

山田:MFBCが発足して、様々な組織課題がクリアになっていきました。
このような動きができたのは、2017年にグループジョインいただいたクラビスナレッジラボの経営者の皆さんが、マネーフォワード側の課題解決にも積極的に関わっていただいたということが大きかったと感じています。

みなさんとても前向きな経営者でいらっしゃったので、マネーフォワード側のメンバーもいい刺激を受けて、フェーズ2から3への移行ができたと思いますし、その間に起こった組織課題も乗り越えられました。

この時もそうなんですが、重大な課題が先に発生して、それを解決できる人がタイミング良く入ってきていただけたというのは、マネーフォワードの歴史の中では、よく起きているように感じます。

竹田:クラビスとともにマネーフォワードにジョインした私としては、当時の課題を解決した一人なのであればとても嬉しいお話ですが、どうしていつも、課題を解決できる救世主のような方がタイミングよくジョインしているんですかね?

山田:創業当初は、とにかく辻さんが夢やビジョンを語って、人を惹きつけていたということが大きかったと思います。

ただ、フェーズ2あたり、組織が100人、200人規模になってくると、辻さん一人の力というよりも、組織として、人を惹きつけるパワーが内在化してきたのかもしれません。

マネーフォワードが大事にしているMVVC(ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー)を策定したのが2016年ですから、それが社員の共感を得て、本当の意味で根付いた頃からは、まさにこのMVVCがマネーフォワードを成長させる原動力となり、成長に必要な人を惹きつけてきたと言えそうです。


後編では、マネーフォワードの組織は、MVVCを核として、さらにどのような要素によって成長組織してきたのか、そしてこれからの組織づくりについて、引き続き、竹田と山田がお話しします!