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20を超えるプロダクトづくりを支える、カンパニーCPO2人の頭の中

こんにちは!マネーフォワード ビジネスカンパニー(MFBC)の白石です。

マネーフォワードのバックオフィスSaaS事業では、20以上のプロダクトを提供し、日々新しいプロダクト開発や機能改善を行っています。

今回は、そんなプロダクトづくりを支えるプロダクトマネジメント組織や、プロダクトづくりにかける思いについて、マネーフォワードビジネスカンパニーCPO(Chief Product Officer)の杉田さんと廣原さんにインタビューを実施しました。

マネーフォワードビジネスカンパニー 執行役員CPO
杉田 圭(Sugita Kei)

独立系ソフトウェアハウスに入社。EPRパッケージのエンジニアを経て、2005年に法人設立。その後2009年にパーソルプロセス&テクノロジーに入社し、小売流通ソリューションの責任者を担当。並行してAIソリューション組織の立ち上げや新規サービス開発の責任者としていくつかのSaasプロダクトの立ち上げを経験。2018年に当社入社。現在はビジネスカンパニーCPOとしてSMB向けプロダクト全体を統括。

マネーフォワードビジネスカンパニー 執行役員CPO
廣原 亜樹(Hirohara Aki)

教育関連企業の情報システム部を経て、1999年にワークスアプリケーションズに入社。人事給与パッケージの開発エンジニアを経て、大手企業向けERPパッケージの開発責任者として複数プロダクトの立ち上げ、企画開発統括、大手企業への拡販、導入PM等に従事。2014年に製品企画開発管掌の執行役員に就任。2020年に当社入社し「マネーフォワード クラウドERP」の立ち上げに関わる。現在はビジネスカンパニーCPOとして中堅企業以上向けプロダクト全体を統括。


カンパニーCPOの役割と分担

ーーまず最初に、MFBCでのCPOの役割について教えてください。

杉田:CPOは「マネーフォワード クラウド」のプロダクトが、お客様に提供できる価値を最大化するために必要なことすべてに責任をもつ役割です。

具体的には、大きく2軸の役割があります。

1つめは、プロダクトづくりそのものに関わることです。プロダクトの戦略策定や、市場調査、競合分析などを行います。その上で、ユーザーの課題を解決するために、いつどんなタイミングで何をサポートしていくかを考える。そして、各プロダクトをどう展開していくかを計画し、各プロダクトのプロダクトマネージャー(PdM)を監督しながら全体をスムーズに進めるための連携をしています。

2つめの軸は、PdMが所属するプロダクトマネジメント組織の運営と育成です。PdMのレベルアップや指導などもさらに力を入れていきたいと考えています。

ーーCPOが2名体制なのはなぜですか?どのように役割を分担しているのでしょう?

杉田:もともと私がMFBCの執行役員を務めていて、その後、廣原さんが入社されました。MFBCが成長して規模が大きくなる中で、一緒にやりましょうという話になりました。

廣原:1人のCPOではカバーしきれない規模感になっていましたよね。現在は私が中堅以上領域、杉田さんがSMB(中小企業)領域を担当しています。

杉田:廣原さんとは週に一度2人で話す時間をもっています。考え方が重なる部分が多いので、意見が大きくずれるようなことは少ないです。

例えば、プロダクト全体で共通のマスタ機能をつくるときは、SMB領域と中堅以上領域でニーズが違うため、何をどこまで共通化するかを話し合います。また、PdMの成長を支援するための制度や組織、プロセスなどについても一緒に進めています。

廣原:「マネーフォワード クラウド」の中には、中小企業からエンタープライズ企業まで幅広い規模の企業にお使いいただいているプロダクトもありますので、こうしたプロダクトは2人で担当しています。杉田さんが話されたように、奇跡的に同じ価値観をもっているので、コミュニケーションは非常にスムーズですね。

CPO設置の背景と課題

——お二人がCPOに就任された経緯や、当時の課題について教えてください。

杉田:「マネーフォワード クラウド」は2013年に提供を開始し、対応業務や対象企業を拡大してきました。私が入社した2018年頃から、プロダクトラインナップが増えていく中で、開発プロセスにおいてプロダクトごとの独自の動きが目立ち始めていました。その結果、近い機能をもつプロダクトがリリースされることもありました。
そこで、プロダクトの抜け・漏れ・ダブりがない状態で効果的にプロダクトを提供していくためにはどうすればいいかを考える必要が出てきました。

各プロダクトのリリースの変遷

廣原:私が入社した2020年は、中堅以上領域のプロダクトが大量に立ち上がる直前のタイミングでした。その中で、PdMが担当プロダクトが担う範疇はどこまでなのか、近い領域の他のプロダクトとの間にあるグレーゾーンの機能はどちらの範疇なのかという悩みを持つようになりました。PdM同士で話し合い「AとBの間はどうする?」「AとCの間は?」と各PdMと調整するのは非常に大変です。

そして、お客様も「マネーフォワードにはさまざまなプロダクトがあるけど、うちの会社はどんな組み合わせで使えばいいのか」という疑問を持つようになります。しかし、プロダクトの組み合わせに関して複合的に答えられる人がいない状態でした。

このような課題から、「統合的にビジョンを作り、マーケットとマッチするように意識しながら方向性を作る人」としてCPOが必要だという流れになり、杉田さんと私が担うことになりました。

杉田:僕は当時MFBCの執行役員をしていましたが、組織が急拡大していく中で、さまざまな課題がありすぎて、どこから整備をすれば良いかを悩んでいました。廣原さんがいらっしゃったことで「CPO室」の立ち上げを相談し、分担をしながらプロダクトの方向性を作ることができたと思います。僕は廣原さんをとても尊敬していて心の支えでもあります。

(CPO室の設立については、廣原さんのnoteもご覧ください!)

提供したい価値と具体的な取り組み

ーープロダクトを通して提供したい価値や、目指すゴールについて教えてください。

杉田:日本は労働生産人口がどんどん減少していて、貨幣価値やGDPも低下しています。このままいけば消滅する国になってしまうかもしれません。
そんな日本の企業の99%以上は中小企業であり、この企業群を活発化させることが日本全体の活性化にもつながると思うんです。
長期的に日本を支えるプロダクトとなり得る「マネーフォワード クラウド」を提供し続ける組織になることがCPOとしてのゴールです。

廣原:SaaSが浸透するとユーザーのコスト面の最適化が進み、業務の生産性が向上します。世界的には、バックオフィス業務が改善することで本業のビジネスが伸びている状況です。SaaSはアメリカだけでなく、東南アジアでも非常に導入が進んでいます。

一方、日本ではバックオフィス業務の生産性がまだまだ低く、バックオフィスに人員が必要なため本業が伸び悩むという悪循環に陥っています。世界の生産性が上がっているため、日本の生産性は毎年世界に遅れをとっていくような状況です。
そんな状況だからこそ、日本で世界レベルのSaaSを作ることによって、世界との差が広がらないようにしていきたいです。

そのためには、目指すゴールに向けてプロダクトを推進するPdMを採用し、育て、さらに強くしていくことが重要です。

ーー現在の具体的な取り組みについて教えてください。

廣原:現在のミッションとして、複数プロダクト併用時のユーザー体験向上に取り組んでいます。「マネーフォワード クラウド」は自社に必要なプロダクトを組み合わせて利用できることが特長です。

まず前提として、一つひとつのプロダクトが強くあることが重要です。これに関しては各PdMとプロダクト開発チームが取り組んでいます。しかし、担当プロダクトの強化だけを追及していくと、ユーザーが複数プロダクトを組み合わせて利用したときの使い勝手への意識が薄れてしまいます。そのため、複数プロダクト併用時のユーザー体験の課題を解消する取り組みに力を入れています。

CPO室を設置し、50名を超える全PdMが兼務として所属しながら業務時間の20%をこの取り組みに割いています。

(体験向上の具体的な取り組みは、ビジネスカンパニーCSOの山田さんのnoteをご覧ください!)

プロダクト開発におけるこだわり、やりがい

ーープロダクトのラインナップが増えていく中で、開発の優先順位や判断軸はどのように考えているのでしょうか?

廣原ユーザーにとって価値あることを1つでも多くやりたいと思っています。判断軸は2つあり、1つが価値の大きさでもう1つは価値を提供するためのコストです。この掛け合わせで判断していて、小さなコストで大きな価値が届くことは優先順位が高くなります。

価値の大きさはさまざまな捉え方があります。小さな改善でも多数のお客様に届けば価値は大きいですし、経理部など特定部署の人にとって「この機能を待っていた」というインパクトがあるなら価値は大きいです。

ーーユーザーにとっての価値の大きさを知るには、ユーザーの要望やニーズを把握することが大切です。どのようにユーザーを理解しているのでしょうか?

廣原:ユーザーの困りごとやニーズを知るには、ユーザーがどんな人でどんな業務をしているかを知る必要があります。その際に「何に困っていますか?」とふわっと聞いても本質的な回答は得られません。

自分で仮説を立て、ユーザーと対話して仮説検証をしていくんです。例えば、「お客様は特に〇〇に困っているのではないかと思うので、こんなことができると価値を感じていただけるのではないでしょうか?」と話すと、ユーザーからより具体的な反応が得られます。「いやいや、特にそこには困っていません」と返答が返ってくることもある。そうなったら、さらに仮説をブラッシュアップしてまた反応を得る、という仮説検証を繰り返すことが重要と考えています。

杉田:私たちのプロダクトは個人、士業、法人は中小から中堅以上まで、さまざまなユーザーがいらっしゃいます。すると、ある人にとって使いにくいものが、ある人にとっては使いやすいこともあります。ユーザーの声を聞くだけでなく、ユーザーにとってのベストを自分たちで考え抜くことを大切にしています。

ーー生成AIを活用した機能を実装し始めていますが、新たな技術を取り入れるときの方針やスタンスを教えてください。

杉田:新たな技術を取り入れるときは、ユーザーが自然と活用できるかを重視しています。せっかくの高度な技術でも、ユーザーにとって使いにくければプロダクト全体としてユーザー体験が下がる危険性もあります。生成AIには動画や音声を作るなどさまざまな種類がありますが、現状はテキスト生成AIの活用が一番取り組みやすいと考えています。

廣原技術は手段であり、ポイントはどんな価値を届けたいかです。生成AIはすぐれた技術ですが、一方で、技術的な難易度が高くないレガシーの技術も重要だと考えています。

例えば、マネーフォワードのコア技術は「アカウントアグリゲーション」です。これは、金融機関などのサービスと連携し、口座の入出金情報などのデータを自動で取得する技術です。この技術自体の難易度は高くないのですが、網羅性を上げていくのがとても大変なんです。そんな地味な作業を追求した会社が他になかったからこそマネーフォワードのサービスが実現しました。

技術者にとってはとても地味な技術を使って、世の中に価値を届けている。実はこのユーザーフォーカスの姿勢がすごいと思って、マネーフォワードに入社しました。

生成AIのような革新的な技術が次々に生まれている今、これまでできなかったことを実現できるかもしれないという視点で捉えることも重要です。「実現できるわけないよね」と諦めていた機能も、あるとき技術が進歩したら実現できるようになるかもしれない。そのために、最新技術を追いかけていくことも大事です。どんなときも大切にしたいのは、「ユーザーにどんな価値を届けたいか」という視点です。

ーー自社のプロダクトとしてバックオフィスSaaSを開発する面白さは、どんなところにあると感じますか?

廣原:私自身はずっとプロダクト開発を経験してきました。一番面白いのは、自分で考えて作ることです。誰かに発注されたものではなく、自分たちが作りたいから作っているんです。作りたい想いがあった上で、そのためにどうしていくかを考えるプロセスがとても面白いと思っています。

また、バックオフィスSaaSの難しい点は自分自身がユーザーではないことです。一般的にものづくりが好きな人の多くは、映画なら自分が観たい映画をつくる、ゲームなら自分が楽しめるゲームを作ることがモチベーションだったりします。
しかし、バックオフィスSaaSの場合は、自分にバックオフィスの経験がない限り未知のユーザーを想定して作ることになります。でも、まったく未知だからこそ面白いと思っています。

杉田:受託開発でも、日本に大きく影響を与えるような企業を支えるシステム開発なら、結果的に日本を支えている仕事であり価値のあることです。しかし、大きな違いはSaaSなら1社を勝たせるだけでなく日本全体を盛り上げていくことができる。自社開発だからこそ、大企業だけでなく中小企業までさまざまな企業に価値を届けることができます。

また、自社開発の場合は、特定のユーザーの希望をかなえるのではなくユーザーのほとんどが満足できるものを作る必要があります。多くのユーザーに喜んでもらえるものを効果的に提供するのは難しい分だけやりがいもあります。それだけ世の中に対する価値提供の度合いも大きいです。自分の子どもに「お父さんがやってきた仕事はこうなんだよ」と言えるような誇らしさを感じています。

ーーMFBCの開発環境は、エンジニアにとってどのような魅力がありますか?

廣原:特徴的な点は、開発拠点が国内外に数多くあることです。日本には東京、名古屋、京都、大阪、福岡と拠点があり、海外にはベトナムのハノイとホーチミン、インドにあります。

日本語が母国語ではない開発のメンバーが増えていて、エンジニア組織の英語化を進めています。日本で開発しているプロダクトでも英語でコミュニケーションをするチームが少しずつ増えています。これから英語を学んで英語で仕事していきたい方にはもってこいの環境です。

また、最近のトレンドでもありますが、プロダクトマネジメントとエンジニアリングが組織として分かれている分業体制です。海外では分業が基本でジョブディスクリプションが決まっているので、世界標準に近い形ですが、このようにメンバーが専門性に特化して分業している組織は日本のto B SaaS業界ではまだ珍しいと思います。

杉田:新しいことにどんどんチャレンジし、急成長している会社なので、エンジニアの皆さんにもさまざまなチャンスがあります。ガチガチに決まったプロセスがないので、臨機応変に動ける方に合う環境で、働いているメンバーもそういったタイプが多いです。

ーーこれまで2名体制でCPOをしてきて、お互いの印象はいかがですか?

杉田:自分にとって廣原さんは尊敬している人です。廣原さんから同じ方向性の意見をもらって「やっぱりそうですよね」とパワーをもらったり、「そういう考え方もあるのか」と素直に受け止められて、自分の成長にもつながっています。

実は、廣原さんが来るまでは1人で考えて悩んでいたこともありました。1人で考えるのは正解かわからない中で自信をもって正解だと言えるように考え抜く必要もありますが、もちろん迷うことだってあります。今は、廣原さんがいなければ生きていけません(笑)

廣原:僕自身はわりと1人で考えるのが好きな人間で、人と仕事を進めることが苦手だったんです。でも、杉田さんとはとてもうまくいっていると思います。

杉田さんは一つひとつを深く理解する人です。細かな技術課題があったときにもすべて理解して解決までやりきる。

僕自身はそこまで突き詰められなくて、細かいところは無理だとわりと諦めちゃう。例えば、何かを実行するときはコストが安くて価値が大きいものを考えて、「コストがかかるわりにリターンがないからいいや」となるんですが、杉田さんはすべてを追求して解決することを一つひとつやれる人なので、その姿を見て日々学んでいます。

CPOとしての今後の展望

ーー今後、バックオフィスSaaSの市場はどうなっていくと見ていますか?

杉田:SaaS領域はまだ伸びしろがあると思います。しかし、市場が広がっているからといって何もしないでも売れていくという時代ではない。今後もより一層プロダクトの価値を考えていく必要があります。

また、バックオフィス業務のツールを幅広く提供している会社はマネーフォワードを含め十数社に絞られています。そのため、特定の領域に対して非常強いプロダクトを開発する新たな企業の参入も予想されます。そういった企業とどう対峙するか、もしくは協働していくのか戦略的に考える必要があるでしょう。

廣原:しばらくはSaaSのプレイヤーは増えて競争が激しくなると思います。競争が激しくなれば、より強いプロダクトが生まれるので、ユーザーにとってはメリットのある状況です。ユーザーにとって価値を感じられるプロダクトがマネーフォワードである状態を目指したいと考えています。

中長期的に考えれば、GAFAMのようにto B SaaS業界も特定領域ごとに1社だけが残る状態になるでしょう。2位のプロダクトすらなくなるのが最終的な状況であり、2位のベンダーは一番きつい状態です。2位のベンダーがなくなることで多くのユーザーを不幸にしてしまうかもしれないからです。だからこそ、マネーフォワードが2位になってはいけないという危機感を常にもっています。

ーーお二人がこれから目指したい未来や、チャレンジしたいことを教えてください。

杉田:究極的には、企業が本業に専念できて、バックオフィス業務はすべて自動化されているのが目指したい未来です。

廣原:個人的には玄人がうなるような深く考えられた機能をたくさんもっているプロダクトが好きなんです。例えば、経理のプロが見たときに「なんで経理業務のことをこんなに知っているんだろう」と思うような。そんなプロダクトを育てていきたいと考えています。


編集後記

今回のインタビューで、お互いに「尊敬している」「学ばせてもらっている」と何度も口にしていたのが印象的でした。

長年のプロダクトづくりの経験に裏付けられた、深いドメイン・ユーザー理解や、事業の戦略性といった共通項を持ちながら、異なる視点やアプローチができるお二人。

二人について、現在CPO室長を務めている広瀬さんは「真逆だけど似ているところもある二人」と表現しています。

CPOの2名体制は、単純な役割分担ではなく、お互いの経験や知見をかけ合わせた相乗効果によって、プロダクトの成長を何倍にも加速させていることがわかりました。

今回のインタビューを通じて、MFBCのプロダクト開発は、サービス同士の連携、マスタなどの基盤、法令対応など、たくさんの取り組むべき課題があり、その複雑さが、面白いところでもあり、とてもやりがいのあるフェーズだと感じました。

MFBCでのプロダクトづくりを一緒に牽引してくださる仲間を募集しています!


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